KISSはロック史においてビートルズに次ぐ偉大なバンドではないか。そんな思いが頭をよぎったライブだった。
私がKISSを聴き始めたのは比較的新しく、ここ10年くらいのことだ。きっかけが何だったかははっきりとは覚えていないが、BS-TBSの「SONG TO SOUL」という番組で『ロックン・ロール・オール・ナイト』が取り上げられた回を観たのがきっかけだったような気がする。長年アメリカン・ハード・ロックにはあまり興味を持たずに来たが、なぜか10年くらい前からKISSやヴァン・ヘイレンなどを聴き始め、大いに気に入ったのだった。つまり私の場合、昔からロックを聴いている割にはKISSに関しては昔からのファンというわけではなく、最近ファンになったという珍しいパターンなのである。
そういう経緯でKISSのファンとなった後、2015年3月3日の東京ドーム公演は初めてKISSを生で体験すべくチケットを買っていたのだが、前日にインフルエンザが発症するという不運があって観ることができなかった。また、既に「最後の世界ツアー」と称していた次の2019年12月の来日公演も別の用事と重なったため行くことができなかった。そのため、「一夜限り、まさかのアンコール来日公演」、「正真正銘、大千秋楽」と銘打たれた今回の来日公演は、私にとってはKISSのライブを観るという悲願を達成するラストチャンスであった。チケット代金が高いのには閉口したが(最近の傾向ではあるが)、奮発して20,000円のチケットを購入した。座席は「地獄の1階1塁側」だった(笑)。
ライブ当日は、一旦13時半頃に東京ドームに行った。グッズ販売が13時からと書いてあったためだ。これまでにも東京ドームでコンサートを観る機会があったが、たいていグッズ売り場には長蛇の列ができているので、並ぶのが嫌いな私はグッズを購入することはなかった。しかし、今回はKISSの最初で最後のコンサートということもあり、特別にグッズを購入してみる気になったのである。もっとも、13時半には既に長蛇の列ができており、じわじわと進んでグッズ売り場に到着したときには既に15時近くとなっていた。Tシャツ2枚とベースボールキャップを購入した。なぜこんなに奮発してしまうのか自分でも不思議なのだが、それがKISSの魅力(魔力?)なのか。
職場に戻ってしばし仕事をした後、買ったばかりのTシャツとベースボールキャップに着替え、18時半頃再度東京ドームへ。開演前には、レインボー、エアロスミス、ヴァン・ヘイレン、レッド・ツェッペリンなどの有名曲が流れていた。いわばライバルともいえるこのようなバンドの曲を流すというのは意外な感じがしたが、ハードロック業界にそれほどなじみのない私には意外でも、当の業界のファンの間では普通のことなのか、周囲の客たちはその段階から大いに盛り上がっていた。
19時少し過ぎに開演。スクリーンでドレッシングルームからステージに向かうメンバーの映像が流れ、爆発音とともにステージの上方からメンバーが降りてくるという演出。曲はもちろん『デトロイト・ロック・シティ』。花火はバンバン上がるし、この1曲目だけでもう腹いっぱいという感じだった。「KISSはロック史においてビートルズに次ぐ偉大なバンドではないか」という冒頭に書いた感想を持ったのは、2曲目の『狂気の叫び』が演奏されているときだった。ロックのエンターテインメント性を究極まで推し進めた存在という点からそのように言うことも許されるのではないだろうか。ジーン・シモンズが火を吹いたり血を吐いたりし、ポール・スタンレーが空中移動をしたりギターを壊したりする定番ムーブが連発されるのを見ながらその思いを反芻した。
また、今回初めて彼らのライブを実際に体験して改めて感じたのは、彼らの曲にはキャッチ―なものが多く、スタジアムで観客が大合唱するのに向いているということで、スタジアム・ロックの権化と言ってもよいだろう。そして、オリジナルメンバーではないトミー・セイヤーとエリック・シンガーの2人にもギターソロやドラムソロなどの見せ場がちゃんと用意されていた。おそらく、オリジナルメンバーから中身が変わっても、意図的にオリジナルメンバー時代からの役割や演出を踏襲しているのだろう。ドラムのエリック・シンガーがオリジナルメンバーのピーター・クリスがボーカルを担当していた「ブラック・ダイヤモンド」や「ベス」では同様にボーカルを担当していたが、ピーター・クリスと同様に妙に歌唱力があって上手いのが面白かった。
彼らのことだからもう1回くらい来日公演があっても不思議ではないが、ツイッターを見ていたらこのコンサートを観に来ていたらしい湯川れい子氏が「今夜で、きっと本当のサヨナラになる事でしょう」と書いていたので、おそらくそうなるのだろう。たとえそうなっても最後に彼らのライブをしっかり体感できたので、私としては大満足であった。