髪を切りました。
いつも、僕は散髪は千円カットに行っている。
そこにものすごい丁寧な美容師さんがいる。
「ここに傷がありますが、どうしましょうか?」
など、千円カットではあり得ないほど気を遣ってくれる。
その人に惚れ込み、僕は千円カットという極安の理容室に通っているくせに、この丁寧に切ってくれる人がいる日しか行かないと決めている。
先日、その人が居たので髪を切ってきた。
すると、この日はいつも以上に丁寧にしてくれて、最初に温かいタオルで頭を巻いて温めてくれたり、細かいところまで事細かく切ってくれたり。
ただ、切ってもらっているうちに、「これは…さすがに千円では申し訳ないのでは…」と思ってしまった。
だけど、どうすればいいのかわからないし、お金がないから千円カットに来ているわけで、どう感謝を伝えればいいんだ、と髪を切られながら悶々と悩んでいると、ふと、あることを思いついた。
1200円払うのはどうだろうか、と。
1080円の料金に1200円払ったところで120円のジュースしか買えないけれど、少しでも、という気持ちにはなるのではないか。
とは言え、お金がない僕は人にそのようなことをしたことがなく、慣れないことは難しい。
というか、やっぱり、散髪代をケチって千円カットで切っているくせに多めに払うというチグハグ感は否めない。
けれど、ここまで感謝の気持ちを表したくなるのも珍しい衝動なので、勇気を振り絞り支払いの時にこう言って1200円を渡してみた。
「お、お釣りはいりません・・・では」
すると、その人は気が効きすぎる人で、僕が100円多く払ってしまったと間違えたと思ったのか、
「あ、ありがとうございます」
と、スッと120円返してこられた。
しかも、その渡し方が、「お金を間違えているのを見ていませんよ」というような気の遣いよう。
出来すぎる、出来すぎるよこの人。
ただ、この時ばかりは出来ない人であってほしかった。
多く払ったつもりが120円、返ってきたのだ。
いや、あの、いや、とテンパる僕。
どうしたんだろうか、と僕の顔をマジマジと眺める美容師さん。
そこで、僕はテンパった表情のまま、こう言い残して逃げ去った。
「あの…あの、ジュースでも飲んでください!」
振り返りもせず、顔を真っ赤にしながら逃げ帰った。
感謝を伝えるのは、難しい。
そして、逃げ帰ってきてこんなことを僕は思った。
「どうしよう、次もあの人に切ってもらいたいのに、今回の件で行きづらくなってしまった・・・」
嗚呼、どうしよう。
【ライブ予告】