朝7時、起床。
シャワーを浴びた後、今日一日の長い長い企画の為、まずは少しだけ筋トレを。
今さら筋トレをして何になるんだという感じですが、とりあえず筋トレなのです。
で、そのあと今日周るお店の確認などをしながら出発の準備を。
そして、準備することなんて一切ないくせに、
「準備完了」
とまるで今から宇宙にでも飛び立つ男のような雰囲気を醸し出しながら準備を完了し、ボクはいざ出発します。
10時過ぎ、電車にゴトゴト揺られること一時間弱、今日のスタート地点である西船橋駅へ到着します。
一時間弱、と簡単に書きはしましたが、一時間弱も電車に揺られることなんて普段は絶対なく、その西船橋に向かう車中では、
「なぜ自分はこんなことをしているんだろう」
と、長い間電車に揺られていたせいか、今の自分がやろうとしている企画に対し不安が深まってしまいます。
ですが、
「やるって決めたんだろう!」
と、よくわからない喝を自分に入れ、葛藤する自分は抑え込んでなんとか西船橋駅へと辿り着いたのです。
そして、西船橋駅に辿り着いたボクは開口一番、
「とうとう着いたか」
と、よくわからないキザな発言をして、西船橋駅のロータリーを見渡したのです。
きっと、こんなキザなセリフを口にするのが夢だったのでしょう。
ですが、そんなキザなセリフを口にしたところで結局は今日の企画はピンクなお店を巡る旅なのです。
「とうとう着いたか」
言えばいうほどものすごくダサいセリフのような感じがしてきたので、とりあえず気を紛らわすために今日一日のお守りとして前もって買っておいた、
「マラ皇帝倫」
という凄まじい名前の飲み物を飲み干します。
そして、初めて降り立ったはずの西船橋の景観などは一切楽しまず、すぐさまピンクなお店へと直行します。
ふとこの時、僕はこんなことを思ったのです。
「人生って、なんなのかしら」
たぶん、この企画への不安が相当あったのでしょう。
ピンクなお店を周る為だけに初めての街を巡るなんて、不安にならないワケがないのです。
でも、今回はそもそもそういう企画なので、不安がってたって何も始まらないのです。
なので、西船橋の「に」の字さえも味わわないまま、早速お店へと。
まずは一店目。
もともと、こういうピンクなお店にはあまり行かないのと、11時という時間帯も相まってか、お店に入る時少しだけ緊張感が走ったのです。
朝なのに、きらめくピンクなネオン。
それにも少し引いていたのかもしれません。
そして、緊張しつつも薄暗い階段を上りきると、さらに不安になるような少し年齢上めなコワモテな店員さんが出迎えてくれたのです。
「え?ちょっと怒ってるの?」
と不安になるような顔をした店員さん、そんな方が出迎えてくれたのです。
すると、そんなコワモテな店員さんから発せられた第一声は、いらっしゃいませ、というような言葉ではなく、こういった言葉だったのです。
「指名料は絶対必要だから、指名料は別料金ね」
「ボッたくられる」そう思いすぐさま逃げる準備をしました。
すると、コワモテな店員さんはそんな僕を睨みつけながら、
「逃げたら容赦しねぇーぞ」
というような表情でこちらを見てくるのです。
逃げれない。
そう思い、「これも人生の勉強だ」とボッたくられるのを覚悟し料金表の方を恐る恐る見てみると、
「指名料1000円」
一瞬、目を疑いました。
1万円の間違いかと思い、もう一度見直したのですが、そこにはハッキリと1000円と書いているのです。
安すぎます。
指名料1000円取るぐらいならば、もともと基本料金の方にそれを入れておいてほしい。
そんなことを思わずにはいられませんでしたが、それはお店のルールなのです。
ですが、なんと言っても1000円という安さにホッとし、とりあえず指名をすることに。
すると、指名料の承諾をする否や店員さんは真っ暗な場所へとそそくさと歩いて行かれるのです。
そして、僕をその場所へと導くとその暗闇の中に貼られてある3つの写真にペンライトを雑に当てながらこう言い捨てられたのです。
「どれか選んで」
幸先、絶好調なのです。
「出鼻くじかれたうえに、またさらに出鼻くじかれたー!」
と本気で思いました。
だって、店内が暗すぎて写真が一切見えない上に、店員さんの出迎えてくれてない感が半端ないのです。
しかも「どれか選んで」って、女の子をどれって言うことはないじゃないですか。
ですが、今回の企画は別にお店の対応や女の子の良し悪しなんてことはどうでもいいことなのです。
なのでここはグッと堪え、とりあえず一番早くついてくれる女の子を選ぶことに。
そして、こじんまりとした店内へ案内され4席あるうちの一つの席に案内され、お相手を待っている間、少しだけ店内を見回してみます。
すると、ビックリなことに朝の11時半だというのに満席なのです。
しかも、みんなスーツを着たサラリーマン。
男の性に対しての執着心、恐るべし。
そんな風に店内を見回していると、はす向かいの席に座ったおじさんと目が合ってしまったのです。
「君も、好きだね」
おじさんの目は、そう訴えかけてきているようでした。
なので、すぐさま目をそらし、
「一緒じゃないよ、おじさん」
と、視線をそらすことでなんとかアピールします。
すると、そんなことをしているとお相手の女性が席へ。
「今日はお休みですか?」
そう言いながら席に入ってきたその女性は、柏から毎日9:30から45分かけて通っているという口元のホクロが印象的な29歳の女性でした。
朝から働いて、まるでパート感覚なのかな。
そんなことを思わせる女性でしたが、それよりもまず、質問に対しどう答えるかを悩みました。
もしこの質問をされた時、他の席に着いているサラリーマン風のおじさん達はなんて答えているのだろうか。
そんなことを考えていると少し返答に時間がかかってしまい、
「聞いちゃまずかった?」
と心配されてしまいます。
なので僕は悩んだ末、
「いえ、仕事です」
と少しクールに決めながら言っておきました。
何が仕事なんだよ。
と自分でもツッコミを入れずにはいられませんでしたが、仕事と言えば仕事なのです。
誰が好き好んで朝から丸一日もかけて10店舗ものピンクなお店に周るものか。
これは問答無用、仕事なのだ。
そう自分に言い聞かし、僕はクールを決め込みながら「今から仕事なんですよ」と黄昏てみたのです。
今考えれば、仕事の日の朝11時にピンクなお店に通う僕は、クールなんてものではなく、相当おかしな奴に見えていたはずですが。
そのせいかその女性の反応も、
「へぇー、大変ですねー」
と、素っ気ないものだったのでした。
あと、この「今日はお休みですか?」というフレーズは、今回の企画をやったことで判明したのですが、ピンクなお店の女の子は80%の確率でこの言葉から会話が始まります。
ピンクなお店に行く = 休み
たしかに。
でも、僕は休みではなくこれが仕事なのです。
何度もくどいようですが、これは僕には覆しようがないほどの大切なことなのです。
「休みではなく、仕事です」
のちに、この言葉がまるでおまじないのようになり、この後この企画を逃げ出したい気持ちになった時には、手放せない必須発言アイテムとなったほどなのです。
そして、いざ記念すべき初ご奉仕を。
朝の11時に女性にご奉仕されていると、なんだか変な気持ちになったのです。
恥ずかしさ、虚無感、罪悪感、と様々な感情を抱いたのですが、その中でも一番僕を嫌悪させたのは、とめどなく溢れ出る自らの性欲でした。
そして、我が身を疑う早さの5分と経たないうちに発射してしまったのです。
あれだけ、「朝からこんな企画をするのは憂鬱だ」的なことを言っていたくせに、なのです。
その女性に「感じやすい人って便利ですよねー?」なんて言われてしまい、さらに複雑な気持ちのままお店を退店したのでした。
すると、お店を出ると明るい日差しがカラダに差し込み、さらに現実に戻されたのです。
「朝から、一体なにやってんだよ」
そして、現実に戻されたせいか困ったことに、先ほどまで嫌悪するほどあった性欲が、一切がっさいなくなってしまったのです。
まずい、まだ一軒目なのです。
マラ皇帝倫よ、このままじゃアナタ名前負けですよ。
ねぇ、効いてよマラ皇帝倫。
どれだけ可愛らしく言おうが、マラ皇帝倫は一向に僕を元気にしてくれないのです。
さすがに一軒目でここまでの喪失感を抱くとは予想にもしていなかったので、僕も面を食らってしまったのです。
まだ9駅。
そんな恐ろしい事実に押し潰されそうになりながら、なんとか次の駅の小岩駅へと向かいます。
街行く綺麗な女性にはまだ目はいくことを確認し、少し安堵しながら自らにムチを打ち、次の駅へと出発たのでした。
続く。