1月7日、無法松さんからのお電話で起きる。

「ちょっとよー、なんか手術しなきゃいけないから今から来てくんないかな?」


とのことで、その日はお世話になっている方のお見舞いに行く予定だったことを伝えつつ、無法松さんのお体の容態などをお聞きします。


すると、


「右目が見えなくてよ、もしかしたら手術後見えないかもわかんないから電話したんだよ」


とのことですので、さすがに手術の方が大事ということで、お見舞いの方はお断りし、すぐさま無法松さんがいる高田馬場へ向かいます。


そして、遅れながらも高田馬場へなんとか駆けつけ、無法松さんにお電話します。



すると、なぜか「パチンコ屋にいるから来いよ」と。

しかも、お元気そうに一人でパチンコを打たれていて、さらにはジャンジャン出されているのです。


あれ?なんて思いはしましたが、とりあえずそこには触れずにすぐさま、

「出るんだ、出てくれ、出てくれれば良い思いが出来るかもしれない!」

と、先ほどまでは「心配で心配で仕方がない」というような顔をしていたのが、嘘のように一瞬で早変わりし、これ以上ないというような意地汚さで見守ります。



少しすると、「ちょっと眼科に行ってくる」と、無法松さんは眼科へ行かれたので、その間、無法松さんがジャンジャン出していた台を僕が打つことに。


「よーし出すぞー」なんて張り切っていたのですが、なんのイタズラなのか、ドンドンとのまれていくのです。


無法松さんが眼科から帰ってこられた頃には、大量にあったはずの玉はほとんど無く、先ほどまで、

「よーし、よーし!何をご馳走して頂けるんだろーな♪」

なんて、図々しくも勝手にご馳走してもらう夢まで見ちゃっていたくせに、その頃にはもう、

「無法松さんにどんな顔をすればいいんだ…」

と、悲壮感に満ち、目を合わすのも怖く下を向いて目をそらしたりしていたのです。


あとでハッと気づいたのですが、目を手術してきたばかりの方に、目の心配もせず目を逸らすとは一体どういうことなのだ…、と。


正直、その時は萎縮に萎縮を重ね着していて、それどころじゃなかったのです。




そして、先ほどまでは大量にあったはずの玉は、気づいたらもうなくなり、

「じゃあ、もう行くか」

と、パチンコ屋を出ようと立ち上がると、なんだかポケットに違和感を感じるのです。

で、探ってみると、なんと財布がなくなっているのです。


「あわあわあわあわあわ」


と、自分でも初めて出すような言葉とも言えぬ呻き声を発し、アタフタしはじめます。


だって、貧乏芸人が財布をなくすなんてことは、急に見知らぬおじさんに強烈なビンタをされたり、母親が街中で見知らぬおじさんにやたらと言い寄られたりしている所を偶然遭遇することなどより遥かに辛いのです。


何を言ってるんだ僕は…、しかもなぜ見知らぬおじさんなんだ。


もう訳がわかりません。

お金を無くしたショックでおかしくなってしまいましたが、なんとかアタフタしながらも、店員の方に探してもらいます。


が、財布は見つからず諦めて外へ出ます。




すると、無法松さんが帰りの電車賃にと1000円札を…さらに、


「もう財布のことは忘れてよ、せっかく高田馬場に来たんだしラーメンでも食っていくか」


と、お優しすぎるお言葉を言って頂き、歓喜に溢れ涙目でラーメン屋を探しに。



すると、その通り道に、なんと、なんと、そこに見慣れた形状をした…僕の財布が…。


「あーー僕の財布ちゃん、僕の財布ちゃん、愛くるしい僕の財布ちゃーん!!」


と、駆け寄り、気づいたら我が財布を強く抱きしめていました。


そのあとご馳走になったラーメンは、無法松さんの優しさと、しっかりお金だけは2万円ほど抜かれていた悲しさとで、ちょっぴり塩辛かったのでした。



そして、ラーメンを食べ終わると無法松さんが僕に、


「でも、ビックリさせるよなぁ、お前。だって打ってた台がオーメンだろ、(アメリカのホラー映画のパチンコ台) それを打ってて立ち上がった瞬間に〝あわあわ〟言い出して徘徊し出したから、オーメンの呪いがかかったんだと思ったよ」


「あと、財布を見つけた時のお前の顔な、あれはあれで呪われてたな」


なんてネタにもして頂き、気づけば食べ終わったラーメンの器には、僕の涙のスープが溢れていたのでした。


…悪しからず。


では。