16
1週間後。
19時に吹奏楽部の指導が終わって、ちょうど校門を出た辺りで健くんから電話がかかってきた。今シェルターで飲んでるから来い、と。条くんも一緒だと言う。
「いや…今日はちょっと…」
「さようならー」と吹奏楽部の生徒たちが口々に挨拶して通り過ぎていく。俺は微笑んで手を振る。
「いいから来いって。なんか用事あんの?」
特に用事があるわけじゃないけど、マスターと顔を合わせづらかった。
あのホテルで聡美の胸元にカードキーを差し込んでたマスター。それを俺に見られても悪びれもせず、閉まりかけたドアの向こうで聡美を引き寄せ、俺を挑発した。
逃げたんじゃない。あのままエレベーターを降りてたら俺はマスターをどうしてたかわからない。嫉妬を感情のままにぶつけるのは俺の男が許さなかった。
「部活終わったんだろ?」
「それは終わったけど」
「じゃあ来いよ。お前に断わる権利はない」
「あるだろッ普通に!」
と、そこへまた生徒たちが通りがかって、
「宝先生、彼女ですかぁ?」
とからかってきた。
「違うよ。健くん」
「え?件ちゃん先生?」
「そう」
「じゃあやっぱ彼女じゃん!キャハハ!」
「彼女じゃねーだろっ」
「おい!宝!」
「はいはい」
すると生徒たちが笑った。
「はいはいだって。尻に敷かれてる!」
「敷かれてねーわっ。気つけて帰れよみんな」
「はーい。さようならー」
「とにかく来いって。お前には大事なミッションがあんだから」
「何?大事なミッションって」
「それは来ればわかる!」
「ますます行きたくねーなぁ」
が、お兄ちゃん達に絶対来いと言われたら断わるわけにもいかず…。