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「やっぱり上に行ってる」
聡美はエレベーターホールの階数表示を睨みながら呟いた。
「二人がこのエレベーターに乗るとこ見たの?」
「ええ。この上は全部客室?」
「ああ。あ、最上階はバーだけど」
「じゃあ、バーに向かってるかも」
俺は片手をポケットに入れて、もう片方の手で顎を撫でた。
「どっちにしろ、デートだね」
「待って。7階で止まった」
「じゃ、ベッドインだ」
「チェックインでしょ?」
「それは食事の前にフロントで済ませてる」
「見たの?」
「見るわけないだろ」
「じゃ、不確かなこと言わないで」
「自分は散々言ってるくせに」
「あ、また動いたわ」
「7階で他の人と入れ替わったのかな」
「二人が7階で降りたんじゃなくて、他の人が乗ってきたのかも」
「ああ、そうだね。それは確かだ」
「嫌味な人ね」
しばらく見ていると、最上階でエレベーターは止まった。
「やっぱりバーよ」
「どうかな」
「賭ける?あたしは、バー」
「じゃあ俺は7階でベッドイン」
「行きましょう」
別のエレベーターが来て、聡美は素早くそれに乗り込んだ。
「ちょっと待って。やっぱやめよう。探偵じゃあるまいし、こんな…」
「いいから、いらっしゃい!」
聡美に腕を取られ、エレベーターに引っ張り込まれた。
ガラス張りのエレベーターには俺たちの他に誰も乗っていなかった。
聡美は黙って腕を組み、勝気な瞳を光らせている。
「趣味が悪いよ、聡美。他人のプライベートを」
「他人じゃないわ」
ドキッ…。
「あの人、あたしの異父兄なのよ?変な女に引っかかってたりしたらいけないじゃない」
「ほんとにそれだけかなぁ…」
なんで、今夜、こんなことになってるんだろう。
俺は聡美と並んでガラスの壁にもたれ、ため息をついた。ジャケットの胸に片手をあて、それからその手でネクタイを緩める。
「聡美…」
聡美の腰に腕を回して抱き寄せる。
「さっき…レストランに戻って来てくれたの、嬉しかったよ…」
聡美が振り向いて俺を見つめる。
「ごめんなさいね。ごちそうさまも言わないで出てったりして…」
それだけ、マスターのことが気になってたってことだよな…。
女性をエスコートしてるマスターは確かに男の俺から見てもセクシーでかっこよかったけど…
でも、だからって、俺とのデートの最中にマスターを尾行するのは、ちょっとデリカシーに欠けるだろ。
俺は聡美を見つめ返した。
俺、聡美の嫉妬に気づかないほど鈍感な男だと思われてんのかなぁ。
いったい俺って…
「准…」
「ん?」
「…可愛い人」
聡美が俺の胸に手を当てて、顔を近づけてくる。
「…聡美」