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国際平和軍での試用期間が終わり、配属先の決定通知が届いたちょうどその日の晩、シャオ・リンから別れ話があった。
画面越しに、リンは、職場のパイロット、ユタと付き合うことになったと言った。
ユタは俺がリンと付き合う前からリンに惚れてた男だ。アフリカ系カダール人で、気は優しくて力持ち。俺とは大違いの大男。
そっか。
と、俺は言った。
画面越し、朝日の当たるリンの部屋。
テーブルの端にあるパイナップルは、ユタの実家がやってる農園のものか。
リンの長い黒髪。ノースリーブの肩。すまなそうな顔。
寂しかったの…なんて、言い訳めいてる?
いや…。寂しい思いをさせたのは俺だ。
連れて行って欲しかったわ。
……。
ごめんなさい。
謝ることない。
じゃあ、そろそろ行くわ。
ああ。
さよなら。
さよなら。
元気で。
リンも。
さよなら。
さよなら。
手を振って、画面を消した。
ふと、パイナップルの甘い香りと、ジャスミンのようなリンの肌の匂いが漂った気がした。
離れ離れの間、俺を慰めていた記憶の数々。
シーツに広がる長い黒髪。
熱い吐息。
繋いだ手の細く白い指。
柔らかな胸やくびれた腰。
甘やかな記憶を遮ったのは、前の職場のロッカールームで見たユタの黒い巨体だ。
ガタッ…!
俺は、勢いよく立ち上がった。
「寝れねーっつの」
俺は夜のベラルートの街に繰り出した。
***
ベラルートに来て初めて泥酔した。
そして、初めて女を抱いた。
酒場で出会って、酔っ払い同士意気投合して、誘われるままに女の部屋に行って泊まった。
翌朝目覚めると、ベッドに女はいなかった。
起き上がって、裸のままキョロキョロしてると、寝室のドアが勢いよく開いた。
「まだ寝てるの?早く起きて」
ヨーロッパ系の小柄な美人がスーツを着て立っていた。歳は30代半ばかな。バリバリのキャリアウーマンって感じ。
髪は金髪。少年のようなベリーショート。グレーのタイトスカートからスラリときれいな脚が伸びている。
「早く服着て。あなた仕事は?」
「ああ…」
時計を見ると、7時前だった。
まずい!今日は配属先に初出勤する日だってのに。
「行かなきゃ!」
ガバッと布団を跳ね除けると、彼女が俺の服を投げてよこした。
「ありがとう」
「急いで。私ももう出るから」
彼女はそう言い捨てて、部屋を出て行った。
俺は秒で服を着て、彼女の待つ玄関に向かった。ふたりで外に出る。彼女は俺に背を向けて、鍵をかけた。
「あなた職場は?近くなら乗せたげる」
「基地」
彼女の動きが止まった。
振り向いて、俺を訝しげに見る。
小柄な彼女は俺と目の高さが同じくらいだ。
キリッとした顔つきだが、唇はセクシーだ。悪くない。いや、どちらかというと好み。
が、残念なことに昨夜のベッドでの記憶がほとんど無い。久しぶりにエクスタシーを味わったその感覚だけはある。←最低。
「遠いから、タクシーで行くよ」
俺はそう言って、エレベーターに向かった。先について、ボタンを押す。
後から来た彼女は、明らかに動揺していた。
軍人は嫌いなのかな。