三宅の中にもう一人の三宅がいた。そのことに驚きはしたものの、岬はそれでやっと腑に落ちた。
やはり、岬の知っている三宅は、人殺しなどできないのだ。
三宅がボーッとしていたり、時々まったく記憶が抜け落ちてしまったりしていた今までの言動にも納得がいった。
三宅の体はふたりの三宅に支配されていたのだ。岬の知っている三宅なら、たとえ自分がやった記憶がなくても、岬が説得すれば、自首に応じたかもしれない。
しかし、今目の前にいる三宅は手強い。
どうしたものか…。
「岬…」
三宅が岬の頬に触れた。
「初めてだ…」
「…え?」
「岬に触れるの」
三宅は頬から指を滑らせ、岬の唇をなぞった。
「岬と一緒にいるのはいつもあいつだったから…羨ましかった…」
三宅が唇を近づけて来たとき、岬は思わず、
「やめて」
と言った。岬がこれまで三宅を拒んだことなど一度もない。
三宅の顔が凍りついた。
「…うるさい」
うるさい…?
三宅は突然耳を塞いで立ち上がった。
「うるさい!うるさい!」
枕を引っ掴んで床に投げ飛ばし、手当たり次第物を投げては暴れ回った。岬は慌てて部屋の隅へ逃げた。
あ!携帯!
と思ったときにはもう遅かった。三宅はベッドに置いた岬の携帯を掴んで床に投げつけた。三宅は宙に向かって叫んだ。
「うるせーんだよ!嫌なことは全部引き受けて来てやっただろうが!たまには俺だっていい思いしたっていいだろ⁈ちくしょう!ちくしょう!」
三宅は壁に頭をガンガンぶつけた。
「追い出してやる!」
ガン!ガン!
髪を振り乱して狂ったように壁に頭を打ちつける。
「健ちゃん、何やってるの⁇やめて‼︎」
「お前なんか出て行け!やられっぱなしの意気地なしめ!」
ガン!ガン!
岬は泣きながら三宅の背中に取り付いた。
「やめてっ‼︎お願い!」
すると三宅がふらりと振り向いた。
乱れた髪の間から覗く目が据わっている。
岬は思わず後ずさった。
三宅は一歩踏み出す。
岬はまた後ずさる。
「健…ちゃん…?」
ベッドまで追い詰められて、岬は難なく押し倒された。
キスで唇を塞がれ、シャツを引き裂かれた。ビリビリ…ッ!
「やめてっ‼︎」
「俺があいつじゃないからか?」
「そうよ!」
「でも俺だってあいつの一部だ」
「そうかもしれないけど…」
「あいつはずっと岬に俺のことを隠してたけど…でも…多分あいつだって本当は…岬に見つけて欲しかったんだ」
「……」
「俺の存在を」
三宅は悔しそうに唇を噛んだ。
「一番に、岬に見つけて欲しかったんだ!」
それは三宅の悲痛な心の叫びだった。
「あいつの心の闇を全部引き受けた俺を…岬に…見つけて、慰めて欲しかったんだ」
三宅の頬を一筋の涙が滑り落ちた。