言葉を探している時は、私から視線を外す。見つかると、パッと目が輝いて、私をまっすぐ見つめる。
先生に見つめられたらドキッとする。私は先生の目から逃れられない。同じようにまっすぐ見つめ返して、ハイと返事をして頷く。
先生は、一生懸命、自分の思いが伝わるように、そして高校生の私に理解できるように、言葉を選び、具体例を挙げて、説明してくれる。
難しい質問をすると、腕組みしたままうーんって下向いて首をひねる。それから今度は顎に手をやって、上を向く。
目を閉じて、眉間に皺を寄せた表情がカッコいい。きれいな指先が顎をトントンしてる。
考えがまとまると、パッと目を開けて、片手を広げる。
「それは多分人によると思うんだけど、俺の場合はね…」
片眉を上げて、話し始める。
先生の体験ややり方や考え方を聞くのが好き。
俺はダメだったなぁ…なんて謙遜して笑うけど、先生のピアノへの真摯な姿勢を私は尊敬してる。
もちろん、生徒に接する姿勢も。先生の話し方には誠意を感じる。
一生懸命伝えようとしてくれるから。
話がだいたい終わったところで、先生が腕組みしたままキョロキョロする。
「それにしても暑いな。エアコン効いてないよね?」
「先生、汗すごい」
私はスカートのポケットからハンカチを取り出した。
先生に渡そうと思って立ち上がったら…
立ちくらみ⁇
「おっと…!」
先生がこちらへ出した腕に私はしがみついた。
「大丈夫?」
先生の硬い腕。頬に触れそうな厚い胸板。
視線を上げると、先生のこめかみを汗が一筋伝うのが見えた。
私は先生に支えられた状態で、ハンカチを持った手を伸ばした。
ピンクのハンカチがこめかみの汗を吸った。