欲望の導きへ続け 最終話 個人レッスン | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

「愛妻は食っちゃったんだ!」


条がアハハッて笑った。


「なんだよ。お前らだって同じじゃねーかよっ!」



と、その時、誰かがコンコンとドアをノックした。


「はぁい」


宝が立ち上がってドアに向かう。


ドアを開けると、生徒が立っていた。


「あ。宝先生、あの…レッスン…」


「ああ!」


宝が額に手を当てて一瞬天を仰ぐ。


「ごめん!今日だっけ?」


「はい。音楽室行ったんですけど、いなかったから」


「ごめんごめん。コンクール明日か」


「はい」


「じゃ、行こうか。譜面…」


「持ってます」


「オッケー。…ちょっと個人レッスンしてくる」


「何のレッスン?」


と、条。


「ピアノに決まってるだろ」


宝は少し顔を赤らめて出て行った。


バタン。


ドアが閉まってから俺たちは顔を見合わせて笑った。


「ピアノに決まってるだろ?」


「あいつが言うとエロく聞こえるからさぁ。何の個人レッスンかと思ったよ」


「朝から立て続けに個人レッスン?」


「あっちの方は宝がレッスン受ける方か」


「聡美さんに?ふふふ」


するとまたドアがノックされた。今度は誰だ?


「あの…3-6の小島ですけど、条先生いますか?」


「はぁい。いるよ?」


条がポケットに手を入れたまま立ち上がってドアに向かった。


ガチャッ。


「あ。先生、今、暇ですか?」


「暇⁇」


「あ!えっと、じゃなくて、時間ありますか?」


「なに?」


ドアに手をかけて首を傾げる。


生徒相手に、まるで言い寄ってきた女を品定めしてるみたいに見えるのは、条の色気のせいだろうか。


「あの…W大の過去問教えて欲しいんですけど…」


「ああ。いいよ。お前だけ?」


「はい」


「いつもくっついてる奴らは?」


「あ。今日は夏期講習無いんで…」


「来てないの?」


「はい」


「で、お前は夏期講習無いのに質問があるから来たんだ」


「はい」


「偉いじゃん。このクソ暑いのに」


条に褒められて、生徒の顔がパッと輝いた。


「どっか空き教室あるかなぁ。2C行くか。…健、ちょっと2C行ってるわ」


「はい。ごゆっくり」


「ごゆっくりはしねーけど。30分な」


「あ、はい!ありがとうございます」


「行こう」


条の後を生徒がパタパタとついて行った。



「お前も個人レッスンじゃねーかよ」


俺はひとりになって呟いた。


「まったくさぁ…朝からスケベなことしといて、しれっと先生面して個人レッスンとか、どうなんだよ?」


ああ、腹が減ってイライラする。八つ当たりだ。


「なんかないかな?」


冷蔵庫を覗いていたら、またドアがノックされた。


「はぁい!」


何も入ってねーな。


「3-1の松野です!健ちゃん先生いますか?」


「いないよ!」


「え⁇」


「今腹を空かしたおじさんがいるだけだよ」


ガチャッ!


「いるじゃないですか!何言ってるんですか⁈」


「だからこれは健おじさんだから」


「わけわかんないですよ!先生、過去問教えて下さい!」


「答え載ってるでしょ」


「これ載ってないんですよ!」


「嘘だよ」


「ほんとですよ!」


「どこの?…K短大の幼児教育か」


「見て下さい!ほら。漢字と敬語の答え、省略って書いてある」


「ああ。それは調べればわかるからでしょ?Google先生に聞きなさいよ」


「健ちゃん先生だってわかるでしょ?」


「俺は辞書じゃねーんだよっ」


「ええ?先生、今日冷たい」


「いつもだよ」


「…さては、奥さんと喧嘩でもしたんですか?」


「は?関係ないでしょ」


「夫婦喧嘩したから機嫌悪いんだ!」


「機嫌悪いとしたら、お前が俺を辞書代わりに使おうとするからだよ。夫婦喧嘩なんてしてねーよ。むしろその逆…あ」


俺は言いかけて、口をつぐんだ。


「逆って何ですか?」


「なんでもない、なんでもない」


「逆ってどういう意味ですかー⁇」


「うるせー。お前何しに来たんだ?」


「質問しに来たんです。先生、夫婦喧嘩の対義語って何ですかー?」


「質問が違うだろ!」


「アハハ!…あ!そうだ。先生、昨日クッキー焼いたんですけど…もらってくれますか?」


「クッキー⁇」


「はい」


生徒が鞄から箱を取り出した。


「いいよ。もらってやる」


「何様ですか」


「健おじさまだ」


「健王子様⁇♡」


「そっちでもいいけど。座れよ」


「いいんですか?」


「ああ。いただきます」


「はやっ!」


「あ!美味いね!」


「ほんと?やった!嬉しい!」


「コーヒー飲む?」


「いいんですか?」


「俺だけ飲むわけいかないじゃん」


「ウソ⁇嬉しいー!ありがとうございます。…ってか、条件部屋って生徒立ち入り禁止って決まりじゃ…」


「何にでも例外はある。美味いよほんとに」


「一応、家庭科部なんで」


「へぇ…ほぅなんだ…もぐもぐ」


「先生、なんか…めっちゃ食べてる…。やっぱり奥さんと喧嘩して朝ご飯食べさせてもらえなかったんじゃ…」


「してないって。食う時間なかっただけだよ」


「寝坊したんですか?夜更かししちゃったとか…」


「……」



答えないでいると、生徒が顔を赤らめて両手を頬に当てた。


ウソだろ?変なこと想像してんじゃないだろうな?



「教えてやるよ。さっきの答え」


「え⁇」


生徒が真っ赤な顔で俺を見る。


「ふ…夫婦喧嘩の対義語ですか?」


「ばかやろう!漢字と敬語の答えだよ」


俺はバッと過去問を奪った。


「どこ?」


ってテーブルに置いてページを繰る。


「……///」


…ったく。さっきまで威勢良かったのに、何急にモジモジしてんだって。


「どこなの?」


隣に座ってる彼女を振り向くと、俺を見てたくせに、慌てて目をそらせた。


「や…ちょっと…///」


って照れて首を傾げる。


ヤバイな。ほんとにエッチな俺想像しちゃってたらすげー恥ずかしいし、気まずいんだけど。


「ちょっとって何?わかんないじゃん。やるの?やらないの?」

あ。しまった。


「や、や、や…///」


ますます真っ赤になる彼女。

ああ…俺のバカ!


「あ、あの、い、いいですもう!自分で調べます」


「あ、そう。その方がいいよ。勉強になる」


「あ、ありがとうございました」


彼女が立ち上がってお辞儀をした。


「何もしてないけど」



「…クッキー美味しいって食べてくれました」



「それはこっちがお礼を言うことだよ」



俺は先生の顔してありがとうって微笑んだ。


彼女が出て行く時に、


「先生、奥さんと仲いいんですね」


ってポツリと言った。

…?


声のトーンが違うから思わず振り向くと、さっきまで軽口叩いてた生徒が、急に思い詰めた顔をして俺を見ていた。


…あ。


高校生のゆかりも、時々こんなふうになることがあった。思春期の一途さはちょっと大人を怯ませるようなところがあって…。


ウソだろ?俺、もうおじさんだぜ?



「そうだね。仲はいい方だと思うよ」


彼女の傷ついた顔には気づかないふりをして、俺は冷めたコーヒーを飲んだ。


ドアがバタンと閉まった。


やれやれ…。


俺はソファにごろんと寝転がって目を閉じた。クッキー食ったら今度は眠たくなっちゃった。


「あいつらもあくびしながら個人レッスンしてんじゃねーかな…」




fin.