空蝉 八 運命 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?


源氏は部屋に入ると、布団の上に女を抱き下ろした。



人妻でありながら源氏にさらわれた自分を、さっきの女房はどう見たかと思うと、女は恥ずかしく、情けなかった。


源氏が膝を詰めると、女はパッと背を向けて逃げ出そうとした。


が、瞬時に後ろから抱きしめられた。

さっきから暑さのせいばかりではない汗をしきりにかいて、衣が肌に吸いついて気持ち悪かった。

が、それを脱いでしまうことがあってはならないと、源氏の腕の中で身を固くした。



「こぉら…っ」


甘い叱責とともにギュッと抱きしめられた。

男の力にかなうはずもない。

源氏は女の肩に顎を乗せ、


「どうして逃げる?…どうして私の気持ちをわかってくれない?」


と女の耳元で囁いた。


「…とても真実とは思えません」


「信じられない?」


「はい。…どうか…お戯れは…」


「戯れではないと言うのに…」


女は胸に回された源氏の腕を掴んだ。が、離そうとしても、離れない。


「どうして…わかってくれぬのだ…っ?」


源氏の熱い息が女の耳にかかった。


温かく包み込むような抱擁と、拗ねた子供のような物言い。


源氏は心の底から女を求めていた。


自身の虚無を埋めてくれるものを求めていた。


「こんなにもあなたを求めているのに…受け入れてくださらないとは…寂しいことだ…」


抱きしめている腕が緩んだ。


女は少し体を離して、源氏を見た。


源氏は目が合うと、すっと視線をそらせた。


俯いた横顔の美しさ。

この美しく最高の身分にある完璧な男が、何故このような寂しげな顔をしているのだろう。


女は憑かれたように源氏に見入った。


大胆な行動に出られ、そのまま強引に奪われると怯えていた。それなのに、自分が拒むと、源氏は手を緩めた。



男らしさと子供っぽさがこの男の中には同居している。自分は誰もが憧れる光源氏だと自信に満ちているかと思うと、案外そうでもないようで…。



もし、自分が受領の妻に身を落とす以前なら、高貴な身分のままであったなら…


たとえ入内が決まっていようとも、このように出会ってしまったら、きっと私は…


この方を拒めはしない。


けれど、私は受領の妻…。


「…どうか…お許しを。私のような身分の者にはそれなりの生き方がございますゆえ…」


たとえ受領の妻に身を落としても、戯れに男に抱かれるような辱めは受けたくない。


「身分…?」


源氏はゆっくりと顔を上げた。



「身分の違いが…なんだ。…夫がいるから…どうだというのだ…っ⁈」



女はハッとして源氏の顔を見つめ返した。

源氏の顔は苦悩に歪んでいた。

これは…この目は、運命に苦しめられている者の目だ。しかし、一体どんな運命がこの方を苦しめているというのだろう…。


運命に…苦しめられている…?


だとしたら、それは、私も同じだ。


父が亡くなり、身分を失った。華やかな後宮の生活に憧れていた。帝に寵愛されるために育てられて来たのに…しがない受領の妻に身を落とし…。





せめて一夜の夢を見ようか…。


高貴な娘であった頃に戻って、この美しい光源氏と呼ばれる貴公子と…。



女は、まるで吸い寄せられるように源氏にもたれかかりそうになり、ハッとして身を立て直した。


が、源氏は女が見せた隙を見逃さなかった。