触れたくて 8 条の思い | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

情けなくて泣きそうになったら、桜が一生懸命言葉を並べて俺を慰めてくれた。


どうしてこいつはいつもこんななんだろうと思ったら、もっと自分が情けなくなった。


「お前がさ…条くんが一番の薬になるって言ってくれたじゃん?」


「あ…あれは…ごめんなさい。私…何も知らなかったから…」


「いや…」


俺は首を横に振った。



「あれが…あの言葉が…頼りだった」



「…え?」



「…あの言葉があったから、千帆の前で強くいられた…」


「条くん…」



俺は顔から手を離して、桜を見た。



「ありがとな。…ほんとに…」



死と隣り合わせの日々で、ほんとはずっと…いつか千帆を失うのが怖かった。


それでも、千帆の前で強くいられたのは、俺がそばにいることが千帆の一番の薬なんだって思えたからだ。



桜の言葉に力をもらって、

桜が握り返してくれた手に励まされて、


俺は千帆を愛した。


千帆を愛した。


それは、ほんとだけど…



ダメだ…。



涙がまた出そうになって、俺は立ち上がった。



「ほんと…それだけ…礼が言いたくて」



ドアの方に歩いて行って、


「…俺、もう行かなきゃ。…時間取らせて、ごめん」


ドアノブを握って、桜を振り向いた。



ドアを開けると、桜がやって来て、ドアを抑えてる俺の前を通り過ぎようとして…


一瞬、立ち止まった。



ふわっと桜の優しい香りが漂って、衝動的に触れたくなった。


だけど、桜は無言で通り過ぎた。触れられずに、サラサラと流れる髪は俺の胸をかすめただけだった。



条件部屋の前で、別れ際に、


「桜…千帆…幸せだったかな…」


って聞いてみたら、


「当たり前じゃない。何言ってるのよ」


って泣きそうな顔で笑った。