触れたくて 7 条の言葉 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

条件部屋の二人がけのソファに私と条くんは並んで腰掛けた。


条くんは、膝の上に肘をついて、両手を前で組んだり外したりして、何から話そうかと考えてるみたいだった。


「なんていうか…」


条くんは組んだ自分の手を見つめている。


「色々…ありがとう」


そう言って私を見た。


「あ、ほら…なんか桃の答辞とかも…ちゃんとまだお礼できてなかったっていうか…」


「そんなこと…」


病院でも、お葬式でも、ちゃんとありがとうって言ってくれたのに…。そんなこと気にしてたの?


「ほんとに…桜がいなかったら、病院にも行けなかったかもしれないし、答辞だって…俺たち聞けなかっただろうし…」


俺たち…。



「すげー…感謝してる。最後の最後で…ほんと…桜に…救われた…」


「…条くん…」



「…最後だけじゃないけど…」



そう言って、条くんは片手で額を覆った。



最後だけじゃない…って、どういうこと?



目元は手で隠れて見えないけど、条くんがキュッと唇を噛んだのはわかった。



しばらくして、条くんが


「情け…ねぇ…っ…」


って呟いた。




「どうして?」



条くんが泣きそうになってる。



「何が情けないの?情けないことなんてないよ。条くん、すごく立派だったよ」


歯を食いしばってる条くんがたまらなかった。

泣いたっていいじゃない。



「好きな人がいなくなったら誰だって悲しいし、寂しいし、泣くのは普通でしょ?

辛くてもお仕事だってちゃんとして、みんなの前でちゃんと笑って…条くん、ちっとも情けなくなんかないよ!泣きたかったら泣けばいいじゃない」


条くんはまだ手で顔を隠したまま、ウンウン頷いた。


それでも、条くんは泣かなかった。


手を離して、はあ…とため息をついて、気持ちを落ち着けようとしていた。


しばらくして、口を開いた。


「お前がさ…条くんが一番の薬になるって言ってくれたじゃん?」



「あ…あれは…ごめんなさい。私…何も知らなかったから…」


「いや…」


条くんが頭を横に振った。



「あれが…あの言葉が…頼りだった」



「…え?」



「…あの言葉があったから、千帆の前で強くいられた…」


「条くん…」



条くんが振り向いて、私を見た。



「ありがとな。…ほんとに…」



大人で、優しい、条くんの笑顔。



胸がキュッとなって、私は条くんに触れたくてたまらなくなった。