「落ちないように、しっかり掴まってて」
「オッケー」
俺は逞しい男の背中にしがみついた。
「地図ないのに、場所わかるの?」
って言うと、男は黙って星空を指差した。
「なるほど」
星を見れば方角がわかるってことか。
俺は星空を見上げて、あのどこかに王子さまの花が咲いてるんだと思った。そして、花のもとに帰ろうとしていた王子さまは、黄色い蛇に噛まれて…。
「あのさぁ…」
「ん?」
「俺を見つけたとき、ほんっとに近くに誰もいなかったの?」
「ああ。誰もいなかったよ」
目的の場所に着いて、俺たちは砂地に降り立った。
俺たちは王子さまの痕跡を探したけど、王子さまの足跡も、亡骸も、何も見つけることはできなかった。
「…なんだ。…たいして重い体じゃなかったんじゃねーか」
王子さまは無事にあの花の待つ星へ帰ったに違いない。亡骸が無いことが何よりの証拠だ。
だから、王子さまは「悲しむことなんかない」って言ってたんだ。
なのに…どうして…
こんなに悲しいんだろう…。
突然、男に力強く肩を抱かれて、俺は初めて自分が泣いていることに気がついた。