桐壺 十一 朽葉 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

桐壺の更衣の死後、帝は亡き更衣に従三位の位を授けた。


死んで後、三位に準ずる位階に上せた更衣の死を人々は丁重に悼み、弔った。

従三位なればこそ、である。


むろん、死んでなお位階を授けられる桐壺の更衣に対する嫉妬もありはしたものの、亡くなってしまえば、もはやそれも意味の無いこと。


帝のお側に仕え、更衣をよく知る女房などは、生前、更衣の身分でありながら女御に優る品格を備えた、慎ましやかで優しいお人柄を偲んだ。





秋が過ぎ、冬になり、年が改まった。

その春、帝は、弘徽殿の女御との間に生まれた一の皇子を、春宮にすることを決めた。


清涼殿の帝の元を訪れた左大臣は、



「よろしいのですか?」


とそのことに関して、念を押した。


「よいのだ」


帝はそう言うと、気だるそうに脇息にもたれた。


もう日も高いというのに、つい今しがた起き出したばかりと思われて、帝は、随分としどけない格好をしていた。


帝は脇息に肘をもたせかけて、扇を開いたり閉じたりしてもてあそんでいる。


パチン…パチン…。




「あんなに更衣の位階を上せることに熱心でいらっしゃったのに…忘れ形見の皇子様に関しては…」


左大臣はそう言いさしてあたりに目をやると、扇で口元を覆って、


「私はてっきり、二の皇子を春宮になさるおつもりなのかと…」


と、囁いた。


「そのつもりも、ないではなかったのだが…」


帝は、フッと笑って手に持った扇を見つめた。


「あれを春宮にしようとすれば、右大臣と弘徽殿の女御が黙ってはいまい」


「たしかに」


「全力で阻止しようとするだろう。その力に対抗できるほどの後ろ立てが、あれには、ない」


「…畏れながら…」


左大臣は、真剣な顔をして居ずまいを正した。


「上が、二の皇子を春宮に、とお考えならば、微力ながらお手伝いを…と考えておりました」


帝は畏まっている左大臣を見て、ピクリと眉を動かした。



「…上様が、更衣様に三位を、そしてゆくゆくは中宮に立てたいとおっしゃったのに、何のお力添えもできず…果ては、あのように…儚くおなりになってしまって…」


左大臣は、俯いて唇を噛んだ。



そして、今、目の前の帝も、朽ちていく落ち葉のように精彩を失ってしまったことに、左大臣は胸を痛めていた。



左大臣は、かつての大胆で、聡明で、純粋な帝を、敬いもし、憧れもし、慕ってもいた。



愛も、力も、見せかけでない本物を手に入れようとしていた帝を。


{17D386EA-BBA8-4D08-95FB-3F80308363B6}


左大臣は帝の視線を感じながら、顔を上げられずにいた。




定められた位階に従って整然と保たれた秩序。それは時の権力者たちを守る強固な砦でもあった。

そこに、ひとり挑んだ帝の心中を自分はどれだけ思いやれていたか…。


おそらく、胸のうちを語ってくれたのは、自分だけであったろうに…。