桐壺 十二 帝の孤独 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

「左大臣」


「はっ」


「そなた…もし、私が二の皇子を春宮に立てると言えば、あれの後ろ見を務めてもよい、と…そういう腹づもりがあったということか?」


「ご命令とあらば」


「あの右大臣とやり合うつもりがあった、と?」


「いかにも」


ハハハッと、突然、帝は上を向いて笑った。


「何をお笑いなさいます?」


困惑して、左大臣は帝を見つめた。


帝は笑い止むと、冷笑を浮かべて、左大臣をじっと睨んだ。


「左大臣…」


「はっ」


「それは、何のためだ?」


「は?」


「私のためか?」


もちろんでございますと言い終わらぬうちに、帝は、

「それとも、己の欲のためか?」


「滅相もございませんっ!」


「二の皇子を操り人形にして、自分の思うままにしようと…」


「とんでもございません!」


「フッ…ハハハ…!」


帝は笑いながら片手で顔を覆った。脇息に肘をついて、左右にかぶりを振った。



「上…っ!…私にはそのような考えは一切…っ…」



「よいのだ…」


笑い止んだ帝は、寂しげな微笑みを浮かべて、


「そなたには、ちょうど一の皇子に似合う娘がいるではないか。その娘を一の皇子に娶せればよい。

さすれば、右大臣の天下の後は、そなたの天下だ。右大臣と張り合う必要はあるまい。

交互に、私の息子や孫を操ればよい。それで国は安泰だ。

もう、よい。下がれ」



「上様…っ」


「聞こえなかったか?」


帝はゆっくりと左大臣に顔を向けた。


「下がれ」


何の感情も映し出さない瞳。



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その空虚な目に、左大臣は一瞬凍りついた。


それから、


「…はっ」


と平伏し、清涼殿を後にするしかなかった。





帝の暗い瞳が左大臣の目に焼き付いて離れなかった。


左大臣は、帝の深い孤独を目の当たりにして、失われた人の大きさを思い知った。


たしかに、あの方が埋めていたのだ。帝の孤独を。帝の虚無を。


あの方が帝を帝たらしめていた。


頰を染めて、「自分にもどうしようもないのだ」と、あの方への恋慕を語った帝は…

「あの方をお守りしたい」と力強く語った帝は…


どこへ行ってしまわれたのだ?


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