天の羽衣 9 胸の鳥 | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

※本日2話目の更新です。





「ただの天人ではない…?」

娘は首を傾げました。


「実は、俺は父の跡を継いで、いずれ天を治めなければならない身の上なのだ」


「まあ!…でも、あなたにはお兄様が…」


「兄たちではダメなのだ。ここに…」


と男は着物の合わせを開き、胸の痣を見せました。

鳥のような形をした茶色い痣は、娘も見て知っていました。


「天王の印をつけて生まれてきたものしか、天を治めることはできない。この印の無い者が天を治めようとすれば…必ず災いが起こる。そして、天が荒れるということは…」


と男は胸の痣から娘へと視線を移しました。


「この地上も必ず荒れる…ということだ」


娘は息を詰めて男の話を聞きました。


なんという人を私は好きになってしまったのだろう。そのような身の上の男を、地上に引き止めておくなど、なんと大それたことをしているのだろう。


今すぐにでも天に帰るべき人なのだ!


娘はあまりのことに、我が身のしていることが恐ろしくなりました。


「お前を連れて帰れればよいが、人間は天上では生きられない」


「まあ…生きられたとしても、私ごときが天王の妻だなんてとんでもないこと…」


いやしかし、娘はすでに天王の子を身籠もっているのです。なんと分不相応なことかと娘は恐ろしくて体が震えました。



「赤ん坊の頃からあるこの痣が…やがて消えるときが来る」


「まあ…」


「それがいつかはわからないが…この鳥が…飛び立ったら、その時が、俺が父に代わって天を治める時なのだ」


「この鳥が…」


娘は鳥の形をした痣をそっと撫でました。


もし今この痣が消えたら、すぐに男は天に帰らねばならない。

そうでなくても、尊い身分。いつまでもここに留めておくわけにはいくまい…。


今までよりも尚一層強く、娘は必ず男を天に帰そうと思いました。


しかし、その思いとは裏腹に、今までよりも尚一層、胸は苦しくなりました。


いつか必ず男を手放さなくてはならないのだと自分に納得されればされるほど、そのことから目を逸らしたくて仕方がないのです。

事実を受け入れたくはないのです。できれば夢を見ていたいのです。

しかし、男の告白は、娘の夢を打ち砕きました。


ひょっとして、男は天に帰らないと言い出すのではないかと、娘がずっと心の奥底にしまっていた淡い期待は、見事に打ち砕かれました。




ああ…!

だけど…


この胸の鳥よ…


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どうか

まだ飛び立たないでおくれ。


せめて


もう少し…


赤ん坊が生まれるまで


どうか…。





そう願う娘の心を読んだように、男は、


「ずっと…ここで飼っていたいものだ」



と鳥の痣をさする娘の手を握り、



「お前、鳥籠を…作ってはくれないか?」



と悲しげに微笑みかけました。