天の羽衣 5 うんと愛したい | 上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

上目遣いのけんちゃん先生 V6カミセン 小説

V6の三宅健と森田剛と岡田准一をイメージしたイケメン教師が、今どきの女子高校生たちと繰り広げる学園ドラマ。ドラマの進行の合間に出てくるけんちゃん先生の古典講義は勉強にもなる?

それから毎晩、男は娘を抱きました。

娘は抱かれた後で、いつも不安になりました。今夜こそ身ごもってしまうかとしれない、と。

ところが、娘はなかなか身ごもりませんでした。

そうして、半年が過ぎました。


「どうなっているんだ?」


ある晩、娘を抱きながら、男が言いました。


「なぜ、お前は身籠もらない?」


「知りません…っ」


男は苛立ちを隠しきれないようでした。いつもは優しいその仕草が、今夜はいつになく荒々しいのです。


娘は悲しくなりました。


「なぜ私が身籠もらないか…それは…っ…」


男の接吻をその細い首筋に受けながら、娘は言いました。


「きっと…あなたが私を愛していないからです…」


男はピクリと眉を動かし、娘の首筋から唇を離しました。


そして、黙って娘の上から降りました。


娘の隣にごろんと仰向けになると、


「きっと…そうか…」


と、呟きました。



それから、天井を見つめてしばらく黙っていましたが、やがてまた口を開きました。


「いや…しかし…俺だけじゃないだろう」



「…?」


娘は男の言葉の意味がわからずに首を傾げました。


「お前も、俺を愛していないのだ」


「まさか…」


「いや、きっとそうなのだ」


「違いますっ」


娘は男の胸にすがりつきました。


男を見下ろし、


「愛しています。初めて会ったときから、ずっと…」


「本当か?」


「信じてください」


「じゃあ…俺の羽衣を返してくれ」


「……」


「俺は兄たちのいる天に帰りたいのだ。お前が本当に俺を愛しているというなら、俺の羽衣を返してくれっ。俺を…天に帰してくれっ…!」


男はガバッと起き上がり、娘の肩を掴んで揺さぶりました。


「羽衣をどこに隠したっ⁇…言えっ!」


「乱暴はおやめくださいっ!」


「言えっ!言うのだっ!」


「おやめくださいっ!約束は、約束ですっ」


男のために今すぐにでも羽衣を返してやるのが本当だと娘にもわかっていました。

けれども、今、男を手離すには娘はあまりにも男を愛し過ぎていました。



男を決して手離したくない娘は、これまで何度羽衣を燃やしてしまおうと思ったかしれません。

しかし、娘にはどうしてもそれができなかったのです。


約束を守るという律儀さだけでなく、いつか男を天に帰してやりたいという気持ちが、娘の中にあったからです。


その気持ちを愛と呼んではいけないのでしょうか。


男に両肩を掴まれたまま、娘は顔を背けました。

強く揺さぶられたせいで乱れた髪が娘の顔にかかっていました。


「どうか…お許しください。もう少し…子供ができるまで…どうかそばにいてください。私は…あなたがいなければ…」


娘は涙に言葉を詰まらせました。


すると、男はフッと諦めたように笑って、


「お前は…俺をそばに置いておきたいだけなのだ」


片手を娘の頬にあて、こちらを向かせると、男は娘に言い聞かせるように言いました。


「宝物を見つけた子供のように、自分の物にして、ずっと愛でていたいだけなのだ…」


男の瞳は寂しげに光っていました。


「ち…違います」


と言う娘の唇を、男は唇で塞ぎました。


眉根を寄せて目を閉じ、切なげにくちづける男の美しい顔…。

それは、胸がギュッと締め付けられるような寂しい接吻でした。


娘は、男にくちづけられながら、もっとうんと男を愛したいと思いました。



「俺はこんなにも愛されている」
と男にわかるように、

自分の愛を信じてもらえるように、

もっとうんと男を愛したい…


いつか子どもができて
ふたりが別れるその日まで


一途に男を愛し続けたい…。


娘はそう思い、男の背中に腕を回してしがみつきました。


娘の細い指が男の着物にキュッと濃い皺を作りました。