手の甲を傷つけるほど噛むのは、事故直後のゆかりの癖だった。
思い通りに動かない体に腹を立てて、歯がゆくて仕方なくて、やりきれない感情を、噛むことで吐き出していた。
気持ちが不安定になって興奮すると、自分を傷つけるゆかりを、よく、抱き締めてなだめてた。
だけど…
最近はそんなことはなくなってたのに…。
なんで…。
ゆかりに口づけながら言う。
「…大事なんかじゃ…っ…ないっ!」
「大事だよ」
「嫌っ!あたしなんか…っ…」
俺はキスでゆかりの言葉を封じる。
「なにができるとか、できないとか、関係ないだろ?…ゆかりは、ゆかりだ。今のままの、ゆかりが好きだよ」
「嘘…」
「嘘じゃない」
「嘘よ…先生、自分で自分を騙してる…」
俺は、唇を離して、ゆかりを見下ろす。
「…片想いのままでよかった…」
泣きながら、そう言うゆかりの切実な想いが、痛かった。
「…先生…あたし…できない…」
「だから、できるとかできないとか…」
「先生と…エッチできない…」
ズンッとゆかりの言葉が重く胸に響く。
「…そんなの…嫌…」
「……」
「先生…」
ゆかりが首を傾げて真剣な顔で俺を見上げる。
「先生…浮気して?」
「え?」
「他の人と…してきて。…その方が…あたし…嬉しい…」
「…なに…言ってんの?」