地方活性化のため「経済」を担うのは、あくまで民間です | 経済評論家・政策アナリスト 池田健三郎オフィシャルブログ「健々囂々」(けんけんごうごう)Powered by Ameba

地方活性化のため「経済」を担うのは、あくまで民間です

このところ地方創生の文脈でお話しさせていただく機会が増えています。

 

地方(地域)活性化の定義じたいは曖昧なので、政策論議を進める際には当事者が共通の理解をもって臨むことが大切でしょう。


原則論を言えば地域活性化は、概ね「官と民が各々の立場でできることを最大限にやり、状況によっては協働してプロジェクトを遂行するなどして全体最適を目指す」ということになるのだと思われます。
 

ところがそこに「経済」の用語が加わり「地方(地域)活性化と経済」となると、やや注意が必要になります。


自治体がその魅力を活かし、あるいは弱点を克服して、産業経済面からの競争力を高めることで、立地企業や事業者の増収増益を図り、雇用の安定、働く人々の所得向上を実現すると同時に、税収増を図り財政の自立性・融通性を獲得することは、地域住民にとっての厚生を高めることに繋がる。そうした活動を通じ当該地域の持続可能性を向上させることこそが、「経済の視点からみた地域活性化」であることは今更言うまでもないことでしょう。
 

しかし、原点に立ち戻ってよく考えてみると、経済活動の主体はあくまで民間であり、マーケティングや商品・サービスの企画開発、販路の開拓、顧客対応、顧客満足度の向上、内部管理の適正化など、売上向上を通じ経済的利得を最大化するために必要な努力は、実のところすべて民間の企業努力に委ねられているのです(もちろん、上下水道等のインフラ整備といった公共投資や特定産業の保護に係る優遇施策など限られた分野は行政が担います)。
 

そもそも公務員は定義上、「事業を通じて収益をあげ利益を資本の出し手に還元すること」からは日常最も離れたところにいて、そうした活動を行う訓練を受けてはいない人々なのですから。
 

それゆえに、「地域活性化と経済」の文脈において、役所がまっさきになすべきことは、(1)「民間の自由な経済活動を邪魔しないこと」に尽きるでしょう。
 

そのうえで、役所としてもしも可能であれば、

(2)地域の民間企業や個人事業者では整備が困難なインフラの供与を通じて劇的に生産性を高める(例:高速インターネット回線整備や物流円滑化のための道路整備、ビジネスを妨げる規制の緩和など)とか、

(3)民間にはない役所特有の資源で民間のビジネス活性化に利活用できるもの(ノウハウ、人脈、情報など)があれば公正にかつ惜しみなくこれを提供する

ということができれば望ましいことになります。
 

これらのことは「当たり前」と思われがちなのですが、実はかなり多くのケースにおいて忘れられている事柄であるというのが筆者の実感です。


例えば、役所側においては「役所の予算でビジネスコンサルを雇い新規事業開発や地域特産品開発に着手しなければ」などと民間の領域に踏み込んで官主導ビジネスを展開することが地域活性化だと思い込んでいる向きもあります。


逆に民間側に問題があるケースも相当あって、「役所が知恵を出してくれないから閉塞感を脱却できず、商売の持続可能性が見通せないので何とかしてほしい」など平気で言い放つ事業者も皆無ではないのが実情です。
 

これらは、いずれも当事者意識が倒錯した残念な事例であるといえ、早期に原点回帰を図らないと手遅れになる可能性があります。
 

以上を踏まえて、最後に典型的な失敗例を一つ挙げておきたいと思います。


A市では特産品を観光客等に販売し地場産品の売上げ増と雇用の確保を企図し、巨額の予算を投じ「道の駅」を創設。その運営会社もA市の出資主導で設立し、社長には市職員OBが就任。農協・漁協や地元企業の協力を仰いで何とか道の駅をオープンさせたものの、民間ビジネス経験が皆無の社長の経営手腕では芳しい成果を挙げられず赤字が継続、赤字分を市の一般会計から補填するも長くは続かずついに道の駅はクローズ。スタッフは全員解雇され、出資金も市に戻らず損失となり、廃墟となった道の駅の建物だけが残る。
 

このような顛末に至らないよう、官民が各々の立場を弁えつつ各々の領域で懸命に努力することが、「地域活性化と経済」の文脈では最も基本的かつ重要な考え方だと改めて思うのです。

 

みなさんの地域ではどうでしょうか。