保守安定政権下での非保守的政策 | 経済評論家・政策アナリスト 池田健三郎オフィシャルブログ「健々囂々」(けんけんごうごう)Powered by Ameba

保守安定政権下での非保守的政策

わが国の政治における「保守」の定義については諸説あるが、少なくとも日本の歴史的・伝統的な価値観の維持を重視し、自由主義・資本主義経済体制を基盤としつつ、「小さな政府」を志向するという点では概ね共通のものであろう。

それゆえ、安倍総理大臣が、いわゆる「保守」の政治家であり、長期政権を敷く現状のわが国は、保守安定政権における執政下にあるということに疑念を差し挟む余地は無かろう。

ただ、これまでの安倍政権下で行われてきた(あるいは今後実施されるであろう)個々の政策をみると、総理自身の思いとは裏腹に、厳しい日本の現状を踏まえ、自らの理想とする「保守」のあり方に固執してはいられない、苦しい事情が垣間見える。

例えば、その典型例として「外国人労働力の導入拡大による実質的移民政策」が挙げられる。この政策の方向性は、日本の歴史的・伝統的な価値観の維持とは真逆のものであり、今最大の政治課題ともいえる「少子高齢化を食い止め、経済成長のための(国内の)労働力確保と生産性向上をはかる」こととは、少なくとも中長期的には整合し難い。

無論、今すぐに少子化に歯止めが掛かる筈もないので、当面の労働力確保による経済基盤の維持は必要なのだが、とはいえそのために「移民政策」という劇薬を使う訳にもいかず、「外国人技能実習生の活用拡大」という、オブラートで包んだ言葉を用いての「実質的な移民政策」を短期的には推し進めざるを得ないというのは苦しい。こうした施策は、なし崩し的に進行していくと不可逆的なものとなりがちなので、その点には注意を要しよう。

また「女性の活躍促進」についても、これはそもそも前述の労働力確保の観点からのものであるにせよ、安倍政権のコアな支持層は日本の歴史的・伝統的な価値観の維持を重視する傾向が強いとされるだけに「内心では腹落ちしていない」という声もきく。ただ、筆者としては、この施策については時代の流れに即したものとして賛同している。

加えて、「カジノ解禁による博戯の拡大」もまた然りである。統合型リゾート(IR)整備による観光拠点としての魅力向上やインバウンド需要の着実な取り込みと経済成長への寄与を期する部分については、総論として反対する余地はない。

とはいえ、具体論として、今回成立した新法をみると、外国人観光客以外に日本人の利用を幅広く認めたことや、従来からのグレーゾーンであるパチンコ等が野放しであることもあって、日本人が国内で稼いだ資金をIR運営会社(外資)に供与する仕組みになりはしないかという懸念、すなわち国富が海外に漏出するリスクを懸念する保守層も少なくない。

以上を踏まえて、このへんであらためてアベノミクスの「三本の矢」、すなわち

①大胆な金融緩和(すでに日銀により実施済)、

②機動的な財政出動(プライマリーバランス黒字化を先送りしてでも実施)、

③民間投資を喚起する成長戦略、

を振り返り、保守主義のめざす政策体系との比較対照を行ってみることは意義あることだと感じている。