ESG投資の視点を非営利組織にも | 経済評論家・政策アナリスト 池田健三郎オフィシャルブログ「健々囂々」(けんけんごうごう)Powered by Ameba

ESG投資の視点を非営利組織にも

日本の企業経営は多面的に日々進化を遂げていることは間違いないが、企業を構成する人間一人一人は当然、生身の生命体であるから、科学技術の進歩等に起因する企業経営の進歩ほどには大進化を遂げることは難しい。それゆえ、いつの時代であっても、人間は間違いや不正を撲滅出来ないのであり、常に完璧な行動をとる人間のみで構成される組織など皆無といえよう。それだけに、いくら時代が移ろってもリスク管理やガバナンス強化の重要性は些かも変わることのない、永遠の課題である。

たしかに、この間の技術進展により企業・組織のリスク管理は着実に高度化されてきたが、それと共に当然、不祥事の態様も高度化をみており、組織体としての行動に係る原則等も進化してきている(例えば2013年のコーポレートガバナンス・コードの導入)。それゆえ、リスク管理とガバナンス強化には終わりがなく、「この程度でよかろう」という妥協点もない。要求される事柄や水準も日々高度化しているのが実情といえよう。

事実、ここ数年の推移をみると、わが国の上場企業における不祥事発生件数は、既往ピークを更新している。当初こそ「リスク管理とガバナンスの高度化により、これまで水面下に沈んでいた不祥事も浮上するようになったのは、リスクの可視化が進んだ証左であり、これはむしろ喜ばしいこと」といった前向きな捉え方も見受けられたが、さすがにこれだけ既往ピークの更新が続くとそうばかりもいっていられない。本質的なガバナンス強化とリスク管理への取り組みに直面しているのが厳しい現実であろう。

こうしたことを背景に近年、「ESG投資」の考え方が広がりをみせている。ESG投資とは、投資家が投資先を決定する際の、環境(Environment:CO2排出等)、社会(Social:人権・適正労務管理等)、統治(Governance:独立役員・情報開示・コンプライアンス等)に対する取り組みへの考慮を指す。2006年に国連が投資家のとるべき行動として責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment)を打ち出し、ESG投資を提唱したため、欧米機関投資家を中心に企業の投資価値を測る新たな評価項目として浮上した。

従来の社会的責任投資(SRI)が「環境保護などに優れた企業を投資家が応援しよう」という発想だったのに対し、ESG投資は上述の項目を重視することが結局は企業の持続的成長や中長期的収益をもたらし、財務諸表からは補足できないリスクを排除可能との発想がある。ESG投資の代表的手法には、高評価の企業を投資対象に組み込む「ポジティブ・スクリーニング」と、反社会的活動への関与や環境破壊が取り沙汰される企業を投資対象から外す「ネガティブ・スクリーニング」があり、類例として議決権行使などで投資先企業の行動に影響を与える「エンゲージメント」や、慈善事業等の社会貢献と経済的利益の双方を追求する「インパクト投資」の手法もある。今や国連のPRI原則に署名した資産運用機関は世界各国で1100(運用資産32兆ドル)を超えている。また、ESGに適合した企業か否かを指標化するスコアリング基準の策定も進んでおり、この流れはもはや不可逆的といえよう。

以上の事象は、現時点では主に投資家から資金(資本)を募り経営される対営利企業投資を想定したものであるが、非営利企業に対する適用も、問題ないばかりかむしろ積極的に推し進めるべきと考える。

わが国の場合、多くの非営利組織は株式会社ではなく公益法人であって、かなりの割合で大なり小なり税制上の優遇措置を受けている。これはその分の負担を他の一般納税者に上乗せしている筋合いにあるので、一般納税者は「投資家」に近い位置づけとなり、それゆえ非営利組織には株式会社以上にESGの発想を求めるに何の不合理もあるまい。こうした点を踏まえ、例えば公益社団法人日本相撲協会や学校法人日本大学などのガバナンスやリスク管理について、あらためて考えてみることも有効ではないだろうか。