政治主導と幹部公務員人事 | 経済評論家・政策アナリスト 池田健三郎オフィシャルブログ「健々囂々」(けんけんごうごう)Powered by Ameba

政治主導と幹部公務員人事

「政と官」の関係をいかに適切に保つのかは、統治機構を考えるうえで、古くて新しい重要テーマである。

 

官(官僚)の力が強くなりすぎれば、政治のコントロールはきかなくなり、官僚専横の行政執行となってしまう。

 

他方で政(政治)が必要以上にパワーを持てば、官僚は自分たちが「全体の奉仕者」であることを忘れ、省益とそれに連なる私益(例えば自身の栄達)を図るため政権に阿り、政治家は自分たちの利得のために官僚を人事で支配しようとするので行政を歪めることになりかねない。
 

2014年5月末に発足し、まもなく5年目を迎えようとする幹部公務員人事運用制度は、今まさにこの問題に直面しているといえよう。
 

公僕たる幹部公務員人事を、国民から直接選挙で選ばれた国会議員が極力、政治主導で行うことは、一般論としては、民主主義国家における健全かつ望ましい姿であり、官僚主導、官僚専横の弊害が顕在化してきたわが国の行政の「歪み」を是正するためには、有効な考え方であるとされてきた。
 

事実、それまでの各府省における様々な不祥事が表沙汰になる都度、マスコミは、「国民の手が及ばぬ官僚機構のなかで彼ら独自の論理と手法により、人事制度が官僚主導で恣意的に運用されてきたことが問題の根源だ」と指摘し続けてきたのである。


こうした経緯もあって、行革の一環として、中央省庁の幹部人事を政治主導で一元管理する組織づくりの構想は、第1次安倍内閣時代に始まった。しかし当初、官僚側はもとより自民党サイドの抵抗も根強く、政治家による恣意的な制度運用に対する懸念が強かったこともあり、なかなか実現しなかった。
 

その後、第2次安倍政権誕生により「縦割りの弊害や省益ではなく、公務員が国、国民のためにがんばる体制を作りたい」(菅義偉官房長官)との狙いから、漸く5年前に「内閣人事局」が発足したのである。

 

従来の各府省幹部人事は、各府省が案を作り正副官房長官らが構成する「人事検討会議」が扱い、対象は事務次官及び局長級約200人であったが、新制度では局長以下の審議官・局次長・部長級以上の指定職(民間企業の役員相当ポストで8級[事務次官]から1級[部長や審議官等]まで8段階に分かれる)約600人にまで対象が広がり(そこまで政治が人事に関与すべきなのかという議論が起きている)、その人事に首相や官房長官が直接関わる仕組みとなり現在に至っている。
 

さて、新制度移行から約5年の時を経て、現状をみるとどうだろう。菅官房長官が当時述べた理想は実現しつつあるのだろうか。
 

この問題を考える際には、人事制度の在り方のみならず、キャリア公務員を取り巻く環境の変化も考慮に入れなければなるまい。
 

すなわち、従来は事務次官に到達する年次は概ね55-59歳程度、局長50-54歳、審議官・部長級45-50歳程度で、同期がこれらのポストに就けば、他の者は「天下り」して役所を去ることにより、キャリア制度と士気が維持された(この仕組みが政官業の癒着の温床になるとして長年にわたり批判されてきた)。

 

しかし、現在では事務次官就任時で60歳を超える事例も珍しくないほか、キャリアの課長で50歳代という例も多数あるほどに高齢化が進んでいるのである。無論、人件費相当の予算をつけて外郭団体等に押し付ける形の「天下り」も厳しい財政状況の下では最早、かつてのように機能してはいない。
 

こうした厳しい環境下で、政治主導が強まり、彼らの裁量に晒されるポストに到達できるか否かで生涯収入が大きく左右されるとなれば、官僚側も、従来以上に人事権者(政治家)に忖度せざるを得なくなるのは、当然の成り行きといえなくもないだろう。
 

このように、政と官とが適切な距離感・緊張感の下で、コンプライアンスを保持しつつ適切な行政執行を継続していくためには、上述のような様々な要素を総合的に考えあわせ、幹部公務員の人事運用制度を柔軟に見直していく必要があるのではないだろうか。