国会議員による教育現場への照会は「教育への不当な政治介入」なのか | 経済評論家・政策アナリスト 池田健三郎オフィシャルブログ「健々囂々」(けんけんごうごう)Powered by Ameba

国会議員による教育現場への照会は「教育への不当な政治介入」なのか

2名の自民党国会議員が名古屋市教育委員会に対して、授業内容の問い合わせを行ったことが、標題のような観点から波紋を呼んでいます。

 

私は、本件は、「天下り問題を起こしたり、出会い系バーを利用したりしたことがあるような官僚が公立中学で授業するなどけしからん」とか、「神聖な教育現場に国会議員が介入することこそとんでもない」といった視点で論ずべきではなく、あくまで

(1)義務教育における適正・公正な内容を担保するためにはどうすればよいか、

(2)国民主権に立脚した国政調査権の適正な発動をどのように考えればよいか、

といった視点から、冷静な議論を行うことが望ましいと考えています。

 

その論拠は以下の通りです。
 

そもそも義務教育は、子供の教育を受ける権利を保障すると同時に、保護者に対し子供に教育を受けさせる義務を課すものだけに、その内容を適正かつ公正なものに保つことが前提となることは申すまでもありません。
 

他方で、わたくしたち国民は、選挙を通じ我々の代表として国会議員を送り出し、教育行政を含む行政機構が、適正・公正にそれを運営しているかを常時チェックしています。その仕組みを維持することが国民主権を具現化するうえで重要であることは当然ですが、そのための裏付けとして「国勢調査権」はきちんと担保されなければなりません。それを教育マターに関しては、国会議員の照会は一切罷りならんという論調には、議会制民主主義の観点からも説得力がありません。
 

一般に、中学校の教科以外の授業において、外部人材(学校の教師以外の方)を招聘して話をしてもらうことは、子供たちの視野を広げる意味でも非常に有効と考えます(私もかつて、小学校の授業の外部講師としてお呼びいただいて児童の皆さんの前で「授業」をしたことがあります)。
 

ただ、その場に大人社会の一部の思惑を持ち込んで、子供たちに影響を与えるようなことがあってはなりません。とはいえ個々の大人はそれぞれ何がしかの主張や思想を持っていることは十分あり得ることで、それ自体は問題ないにせよ、万が一にもそれが義務教育の現場に持ち込まれて、子供たちに何らかの影響を与えることは避けなければならないのは当然です。
 

その視点から、国民から直接選ばれた国会議員が、教育の現場である学校や教育委員会に対して、国政調査権を背景に、念のために事実関係を調査するといった活動が、直ちに全面的に否定されるものではないでしょう。
 

無論、調査といっても「行き過ぎ」や「偏向」、「押し付け」、あるいは「教育現場の威圧」、「講師に対する誹謗中傷」などになってはいけません。また、当の照会議員自身が、平素の行動において、極端な思想・信条を開示しているような場合には、そもそも照会の動機がフェアでニュートラルなものであるのかが疑問視され、そちらにスポットが当たってしまいかねません。
 

今回の事案では、赤池参議院議員が「国際社会とは国家間の国益を巡る戦いの場であり、地球市民、世界市民のコスモポリタンでは通用しない」として「『友達に国境はない』というフレーズはけしからん」と文科省に抗議の電話をしたという報道があり、これが本当ならば、まさにこの杞憂が現実となっている事例といえるかもしれません。
 

しかしながら、だからといって、「国会議員が直接、教育内容に関する質問を投げかけるなどとんでもない」というあまり大雑把な主張には到底首肯することができません。国会議員が何らかの問題意識を持ち、国政調査権を背景に、あらゆる現場を調査することそれ自体を否定することは、上述のように国民主権の否定にもつながりかねないからです。
 

ひるがえって、今回の前文部科学事務次官・前川某が名古屋市立中学校で行った「授業」の内容が、公教育の現場で行われる内容として適切なものであったのか、全くの部外者の私でも、義務教育課程にいる子供を持つ父親として、「まさか、文部科学事務次官まで務めた方が中学生を相手におかしな話をされることはないだろう」とは思いながらも、実のところ、少々気にはなるところです。

 

とくに彼の場合は、退官後、特定の思想や政治的傾向を持った方々が主催または関与する講演会等でたびたび講演を行っているという事実も報じられています。こうした報道等を踏まえると、国会議員が、「この人が中学生を前にどのような授業をしたのか、知っておきたい」と思い、現場に質問を投げかけることは、直ちに不穏当なことだとは言い切れないと思われます。
 

いずれにせよ、このようなケースは今後、他にも起こり得る可能性があるでしょう。例えば、「右翼的な思想教育を行っているのでは」という疑念から、リベラル系議員が学校や教育委員会に照会を行うケースも未来永劫起こらないとは断言できないでしょう。
 

以上のような点を踏まえて、今回の事案の当否についてはぜひ冷静な議論が行われることが望ましいと考えるところです。