公益法人制度を崩壊させた日本相撲協会 | 経済評論家・政策アナリスト 池田健三郎オフィシャルブログ「健々囂々」(けんけんごうごう)Powered by Ameba

公益法人制度を崩壊させた日本相撲協会

公益財団法人日本相撲協会を巡る不祥事が止まらない。

足許10年余りの主な事案をみただけでも、2007年に大相撲時津風部屋に新弟子として在籍していた序ノ口力士の少年が暴行を受け死亡した(かつ親方は事件の隠蔽を図るべく遺族の同意を経ずに荼毘に付そうとした)新弟子リンチ死事件が未だ記憶に新しいほか、2008年の大麻使用事件、2010年の朝青龍による一般人暴行事件、同年に多数の処分者を出した野球賭博事件、同年から2011年にかけての八百長事件、昨年の日馬富士による貴ノ岩暴行事件、さらに本年の立行司によるセクハラ事件といった具合である。

 

それがここにきて、さらに2014年に春日野部屋で発生した傷害事件の隠蔽疑惑まで浮上した。

かかる一連の不祥事をみただけでも、暴行死・大麻使用・暴行障害・賭博・八百長・セクハラと暴力団顔負けの事案が並んでおり、まさに「反社会的組織」、「犯罪・不法行為のデパート」の様相を呈しているといっても過言ではないだろう。日本に公益法人は数々あれど、果たしてこれほどひどい団体が他にあるだろうか。

世間一般を見渡して、このような反社会的集団に法人格を与え、自由に契約行為や興行等の経済活動を行わせるのみならず、納税義務の殆どを免除するなどということは、もはやまともな民主国家の有りようとは到底言えまい。

 

反社会的組織の納税を免じた分の負担は、明らかにわれわれ一般納税者に降りかかっているのであり、「財団法人には株主が存在しないから仕方がない」などという主張はまったく成り立たない。

 

日本相撲協会のみならず、公益法人の活動を実質的に支えているのは、紛れもない一般納税者であり、それゆえに反社会的な振舞いは一切許容されないのだということを今一度確認しておく必要があろう。

ただでさえ足許の企業・団体に対する反社会的要素の排除圧力には猛烈なものがある。営利法人であるか否か、規模が大きいか小さいかを問わず、須らくガバナンス改革(経営と執行の分離、透明性と説明責任の担保、反社会的勢力排除など)すなわち企業・団体統治の「適正化」の嵐が吹き荒れていることは今更指摘する必要もあるまい。中でも反社会的勢力の排除は基本中の基本であり、少しでもその片鱗がみられるような企業・団体は、当局はもとよりマーケットや世間一般から厳しい制裁を受けるのが常識である。

ひるがえって日本相撲協会は、公益法人でありながら、営利的・職業的な相撲興行を全国規模で開催している唯一の法人である。

 

公益財団法人に移行する以前は、文部科学省所管の特例財団法人で、毎年、初場所には天皇皇后両陛下の行幸啓もあり、優勝力士には天皇杯が下賜されるなど権威と格式を備えた組織として、国民のある種の「寛容の精神」にも支えられ優遇されてきたことは事実であろう。

 

政策論としてみても、こうした経緯について、必ずしも大きく間違えていたとまでは言い難かった。

実際、同協会を巡る数々の事件報道がなされる毎に、相撲界の特殊性や国技の代替不可能性などが強調され、外部からの批判もその特殊性等を前提とした上で展開されることが殆どであったように思われる。

 

とはいえ不祥事がここまで累積すると、政策論としても、いつまでもこうした状況を放置しておくわけにもいくまい。

同協会の定款には、その目的として、「この法人は、太古より五穀豊穣を祈り執り行われた神事(祭事)を起源とし、我が国固有の国技である相撲道の伝統と秩序を維持し継承発展させるために、本場所及び巡業の開催、これを担う人材の育成、相撲道の指導・普及、相撲記録の保存及び活用、国際親善を行うと共に、これらに必要な施設を維持、管理運営し、もって相撲文化の振興と国民の心身の向上に寄与することを目的とする」と定めがあるが、現状を見るに、とても「相撲文化の振興と国民の心身の向上に寄与」しているとは言えない状況である。

組織として、必要最低限の統治機能をも備えていないばかりか、過去の不祥事を真摯に受け止め再発防止と組織改革に真剣に取り組む姿勢すらもない。

 

それゆえに、違法行為・不法行為が止め処なく発生している現状を踏まえると、同協会を特別扱いすることが是認される局面はとうに終結しているといえよう。

同協会としては、襟を正し、公益法人として厳格かつ適切な行政的な監督及び社会的監視を受けるべきタイミングが到来したのである。

 

そのためには、従来型の「改革」では不十分であり、この際、公益法人を返上して一般財団法人へと組織変更し、納税義務を果たしながら、適切なガバナンスやコンプライアンス(法令順守)の確保について一から再構築すべきであろう。

 

自浄能力を欠いた同協会をこのまま公益法人のまま放置しておくならば、日本の公益法人制度が根底から崩れ落ちることにもなりかねないことを強く危惧するものである。

 

【参考】

平成28年4月1日に施行された「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」における、公益認定取消関係条文

 

第六条 前条の規定にかかわらず、次のいずれかに該当する一般社団法人又は一般財団法人は、公益認定を受けることができない。
一 その理事、監事及び評議員のうちに、次のいずれかに該当する者があるもの
イ 公益法人が第二十九条第一項又は第二項の規定により公益認定を取り消された場合において、その取消しの原因となった事実があった日以前一年内に当該公益法人の業務を行う理事であった者でその取消しの日から五年を経過しないもの
ロ この法律、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成十八年法律第四十八号。以下「一般社団・財団法人法」という。)若しくは暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)の規定(同法第三十二条の三第七項及び第三十二条の十一第一項の規定を除く。)に違反したことにより、若しくは刑法(明治四十年法律第四十五号)第二百四条、第二百六条、第二百八条、第二百八条の二第一項、第二百二十二条若しくは第二百四十七条の罪若しくは暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)第一条、第二条若しくは第三条の罪を犯したことにより、又は国税若しくは地方税に関する法律中偽りその他不正の行為により国税若しくは地方税を免れ、納付せず、若しくはこれらの税の還付を受け、若しくはこれらの違反行為をしようとすることに関する罪を定めた規定に違反したことにより、罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から五年を経過しない者
ハ 禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は刑の執行を受けることがなくなった日から五年を経過しない者
ニ 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第二条第六号に規定する暴力団員(以下この号において「暴力団員」という。)又は暴力団員でなくなった日から五年を経過しない者(第六号において「暴力団員等」という。)
二 第二十九条第一項又は第二項の規定により公益認定を取り消され、その取消しの日から五年を経過しないもの
三 その定款又は事業計画書の内容が法令又は法令に基づく行政機関の処分に違反しているもの
四 その事業を行うに当たり法令上必要となる行政機関の許認可等(行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二条第三号に規定する許認可等をいう。以下同じ。)を受けることができないもの
五 国税又は地方税の滞納処分の執行がされているもの又は当該滞納処分の終了の日から三年を経過しないもの
六 暴力団員等がその事業活動を支配するもの

 

第二十八条 行政庁は、公益法人について、次条第二項各号のいずれかに該当すると疑うに足りる相当な理由がある場合には、当該公益法人に対し、期限を定めて、必要な措置をとるべき旨の勧告をすることができる。
2 行政庁は、前項の勧告をしたときは、内閣府令で定めるところにより、その勧告の内容を公表しなければならない。
3 行政庁は、第一項の勧告を受けた公益法人が、正当な理由がなく、その勧告に係る措置をとらなかったときは、当該公益法人に対し、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。
4 行政庁は、前項の規定による命令をしたときは、内閣府令で定めるところにより、その旨を公示しなければならない。
5 行政庁は、第一項の勧告及び第三項の規定による命令をしようとするときは、次の各号に掲げる事由の区分に応じ、当該事由の有無について、当該各号に定める者の意見を聴くことができる。
一 第五条第一号、第二号若しくは第五号、第六条第三号若しくは第四号又は次条第二項第三号に規定する事由(事業を行うに当たり法令上許認可等行政機関の許認可等を必要とする場合に限る。) 許認可等行政機関
二 第六条第一号ニ又は第六号に規定する事由 警察庁長官等
三 第六条第五号に規定する事由 国税庁長官等


第二十九条 行政庁は、公益法人が次のいずれかに該当するときは、その公益認定を取り消さなければならない。
一 第六条各号(第二号を除く。)のいずれかに該当するに至ったとき。
二 偽りその他不正の手段により公益認定、第十一条第一項の変更の認定又は第二十五条第一項の認可を受けたとき。
三 正当な理由がなく、前条第三項の規定による命令に従わないとき。
四 略

2 行政庁は、公益法人が次のいずれかに該当するときは、その公益認定を取り消すことができる。
一 第五条各号に掲げる基準のいずれかに適合しなくなったとき。
二 前節の規定を遵守していないとき。
三 前二号のほか、法令又は法令に基づく行政機関の処分に違反したとき。
3 前条第五項の規定は、前二項の規定による公益認定の取消しをしようとする場合について準用する。
4 行政庁は、第一項又は第二項の規定により公益認定を取り消したときは、内閣府令で定めるところにより、その旨を公示しなければならない。
5 第一項又は第二項の規定による公益認定の取消しの処分を受けた公益法人は、その名称中の公益社団法人又は公益財団法人という文字をそれぞれ一般社団法人又は一般財団法人と変更する定款の変更をしたものとみなす。
6 略
7 略