浅草寺仲見世の激安家賃問題を考える | 経済評論家・政策アナリスト 池田健三郎オフィシャルブログ「健々囂々」(けんけんごうごう)Powered by Ameba

浅草寺仲見世の激安家賃問題を考える

東京観光のメッカといえば、スカイツリーと並んで人気の浅草・浅草寺を挙げないわけにはいかないだろう。

 

年間の観光客数はいまや3000万人を超え、外国人観光客も大勢訪れる江戸情緒溢れるスポットである。その浅草のシンボルである雷門をくぐり、本堂に参拝しようとすれば必ず通るのが「仲見世」。250mにわたって左右に90もの土産物店などが並び賑わっている。


観光客が浅草で飲食や買い物などに使う消費額は1人当たり2900円余りで、年間の観光消費額は958億円に上り、これまで浅草寺と仲見世商店街は二人三脚でやってきたが、本年9月にこの商店街の地主である浅草寺が店の賃料を大幅(従来比16倍程度)に値上げすると通告して騒動になっている。

 

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20171026/k10011197591000.html

 

報道によれば、商店街の土地は浅草寺所有で、建物は東京都が所有、東京都はこの土地をこれまで無償で浅草寺から借り受けていたため、賃借人の商店側はこれまで、賃料を都に支払っていたが、その額は「最大で4万円程度」という信じられない安値であった。

 

つまり「地代はタダ、家賃は激安」という状況が継続しており、仲見世により浅草寺じたいも集客ができていたため「WIN-WIN」の関係で問題なかったということであろう。


ところが6年ほど前から、固定資産税の課税の見直しを背景に、この契約を見直す動きが出てきた。浅草寺、商店街組合、そして東京都の三者間で協議の結果、本年7月、都が寺側に商店街の建物を2000万円で売却することになった(売却に際し仲見世通り商店街の景観やにぎわいを維持することが条件)。

 

つまりこれを契機に東京都は、これまでの三者の枠組みからは外れ、浅草寺が地主・大家となって、店子の商店側と契約する形になるわけである。

 

当然、浅草寺には建物の所有者としての維持管理費用が生ずるので、これまでのように商店の賃料は激安というわけにはいかず、値上げを提示することになったわけだが、商店街の代表者は、「家賃が現行水準でいいとは思っていないが、現状だと家賃が16倍になる計算で、飲めない。寺側はこちらの事情を理解していないのでは」と話している由。

他方で浅草寺側は、「商店街の建物は経年による修繕費用も必要。都への固定資産税の支払いもあり、家賃の見直しは必要」と主張。

 

本件は著名な観光地で発生した問題だけに、世間の関心も高く、ネット上でも関心を集めている。

 

外野の意見は賛否両論といったところで、「最高の立地条件に対する従来の賃料が低すぎ」という意見がある一方、「破格ではあるが、いきなり16倍の値上げは気の毒だ」と商店側に同情的な声も上がっている。

 

また、「家賃は安すぎる気はするものの、退去後に免税店などが来れば周辺店舗への影響は甚大」とか、「仲見世通りがチェーン店だらけになったら風情が失われ観光地としての魅力を喪失する」などと懸念する声も見受けられる。

因みに、全国の著名神社仏閣門前の商店街でも、地代・家賃の値上げが行われたケースがあり、例えば、長野市にある善光寺の門前にある商店街では、10年ほど前に地価下落に伴う寺院の時代収入減少に対応して地代が1%値上げされたケースがあるほか、奈良県の東大寺門前にある奈良公園の商店街の地代も平城遷都1300年祭を契機に、他所の実態調査を踏まえ1.5倍に引き上げられている(激変緩和のため7年間かけて値上げ)。

いずれにせよ、本件は寺と商店街側がよく話し合って、円満解決を図り、日本を代表する観光スポットとしての価値を損なうことなく維持向上させる契機にしていただくことが先決であることは言うまでもないが、ここで私の考えを述べてみたいと思う。

 

まず、基本的な考え方が重要だが、やはり「本件は第一義的にはビジネス案件である。よって、判断は市場原理に立脚してなされるべきであり、その枠外で考えなければならない事柄があれば、それは例外として考え適切な解決策を探るべき」というのが基礎になると思われる。そのうえで第二義的には「都政マター」でもある。「税金で運営される地方公共団体の活動として、本件をどのように取り扱い、都民全体の利益に資するのか」ということも勘案されなければならない。

 

上記の原則に立ってみると、そもそもこれまでの東京都=浅草寺=商店街の三者間での契約が適正だったのかという点については、

(1)都有物件ゆえ固定資産税の負担を免れ、その分安値で店舗が安値で賃借できていたというのはアンフェアである

(2)ゆえに従来の賃料は不当に安かったことになる

(3)この物件に破格の安値に賃料を設定しなければならない、特別な理由は見当たらない

ということになる。

 

とすれば従来の賃料設定はフェアではなかったのだから、早期に是正されるべきであることは自明であろう。適正価格と実際の賃料との差額に件数と年数をかけた莫大な金額が、都民(納税者)全体の負担になっていたことは動かしがたい事実であり、それを正当化するならば相応の材料が必要だ。

 

そのうえで今後、この商店街を世間相場に適合した賃料設定へと見直を図った場合に、どのような「不都合」が起こる可能性あるのか、その「不都合」を排除しようとした場合に別の「アンフェア」が発生しないかをよく検討する必要があるということだろう。

 

なお、付言すれば、東京都も「単に物件を浅草寺に売り渡して、すべて終了。あとは民間で勝手に話し合え」というスタンスではなく、これまでアンフェアな状況を放置してきた責任からも、事態の推移を見守り、必要に応じ円満解決に向けた適切な行動をとるべきであろう。小池都知事のお手並みを拝見したいところである。