マイナス金利一周年と、みえてきた最近の変化 | 経済評論家・政策アナリスト 池田健三郎オフィシャルブログ「健々囂々」(けんけんごうごう)Powered by Ameba

マイナス金利一周年と、みえてきた最近の変化

2016年2月16日より実施された日銀のマイナス金利政策が導入されて、早いもので1年が経過した。
 

このマイナス金利政策は、民間銀行の日銀当座預金口座にある超過準備に対して▲0.1%のマイナス金利を課すものである。

 

銀行はペナルティを払ってまで日銀の当座預金口座に余剰資金を預けるよりもむしろ民間への融資を増やしたほうが有利となる仕組みをつくることで、インフレ率が安定的に2%を継続できるようにし、デフレ脱却につなげる狙いである。
 

※詳細はこちらのブログポスト参照

http://ameblo.jp/ken-ken-go-go/entry-12130670258.html

 

日銀の黒田総裁は以前から2%のインフレ目標を「2016年末には達成したい」としていたが、市場はその達成には懐疑的であった。事実、このマイナス金利導入によっても銀行の貸出残高が増加傾向に転ずることはなく、デフレマインドを払拭するには至らなかった。
 

こうした中でマイナス金利導入後7カ月を経た2016年9月下旬になって、日銀は金融政策決定会合で、さらに「新たな政策手段」の導入を決定、それが年末年始を跨いで現在に至るものである。
 

この時の決定事項のポイントは、
(1)新たに「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」(実際には「長短金利操作およびマイナス金利付き量的・質的金融緩和」)を導入し、[a]イールドカーブ・コントロール(長期金利操作=10年物国債金利がゼロ%程度を維持するよう国債を買入れ)を行うとともに、[b]オーバーシュート型コミットメント(CPI上昇率が安定的に2%を超えるまでマネタリーベース拡大を継続)を実施する、
(2)マイナス金利の深掘りは行わない(現状維持)
の2点であった。
 

※詳細はこちらの記事参照

http://ameblo.jp/ken-ken-go-go/entry-12203456838.html

 

当初はこの政策の意図がマーケットに正しく受け止められず多少の混乱はみられたものの、年明け以降になって、ようやく変化も兆しも見受けられるようになってきた。
 

例えば、日銀が四半期ごとに公表している「展望レポート」(2月1日公表)をみると、昨年10月時点における見通し(政策委員による)に比べ、実質GDPや消費者物価指数の見通し(2016年度、2017年度、2018年度)が各年度すべて上振れとなっている。
 

また、これと整合する形でイールドカーブの期先部分がスティープ化(10年以上先の金利予想が劇的に上振れ)している。
 

さらには、(これは展望レポートには掲載されていないが)先物価格をもとに算出した月次のフォワードレート・カーブをみると、昨秋まで期先になるにつれ右下がり(つまりこの先まだまだ金利は下がるとの市場期待を表す)であったが、年明け以降はついにフラット化し「デフレ期待」が払拭されつつある様相を呈しているのである。
 

以上を総合すると、1年前の「マイナス金利導入」に続き、昨秋の「量的緩和からイールドカーブ・コントロールへ」という政策対応が、「まだまだ量的緩和が続く」というムードをようやく一掃しつつある可能性が微かに見えてきたといえなくもないのである。
 

無論、こうした変化が今後も一本調子に継続していくとは限らないので、なお慎重な見極めが必要なことは言うまでもないが、いつ終わるとも知れぬ量的緩和からイールドカーブ・コントロールへと舵を切った日銀の判断が、デフレマインドを払拭する日は近づいているのかもしれない。