トランプ政権の経済政策と日本 | 経済評論家・政策アナリスト 池田健三郎オフィシャルブログ「健々囂々」(けんけんごうごう)Powered by Ameba

トランプ政権の経済政策と日本

1月20日、いよいよ米国でトランプ政権が始動したのを機に、日本経済への影響について考えてみた。
 

まず、彼の就任式でのスピーチやその後しばらくの間の言動をみる限り、そのポリシーは選挙キャンペーン中のそれと基本的には変わりがない。よって、従来の主張である「自国利益優先」および「保護主義」を具現化するために、今後、大統領としての権能をフルに発揮していく流れが加速すると理解しておくべきであろう。
 

その場合、日本に対しては、日米安保条約に基づく駐留米軍の経費負担上積みを求めてくる可能性が高く、その場合、これは財政支出増大に直結するため、政府は予算のやり繰りに悩まされることになろう(既にシミュレーションと対策は終わっていると推定するが)。
 

次に日米間における通商バランスの是正、すなわちトランプが繰り返し主張する「buy America and hire American」(米製品を買い米国人を雇う)につながる、日本による米国製品の輸入増大(農産物を含む)と、自動車をはじめとする対米輸出の削減を求めてくることも想定される。
 

仮に、米国経済の拡大がこの先順調に進み、2018年1月に任期満了を迎えるイエレンFRB議長が今後も利上げ路線を継続しうるだけの余力が生ずるならば、金融緩和の継続を余儀なくされる日本と、米国との金利差は拡大する。これはドル高・円安圧力として作用する筋合いにはあるが、現時点ではまだ確たる裏付けがあるわけでもなく、先行き不透明と言わざるを得ない。
 

それとは逆に、米国の景気拡大がもたつくような事態となった場合は、FRBは利上げどころではなくなり、トランプ政権への支持率低下とも相まって矛先が日本へと向き、「日本製品を排斥せよ」、「日本は米国製品をもっと輸入せよ」といった圧力が高まるリスク(その場合は円高・ドル安)も念頭に置いておく必要があるだろう。
 

このようにみると、トランプ政権移行後の経済を占う際の要点は、やはり何といっても2017年の米国景気が順調に拡大を続けられるかということにならざるを得ない。
 

因みに、トランプ政権は遠からず、公約である法人税減税に着手するとともに、公共投資の増大(ただし、財政規律の緩和には議会の同意が必要なので、この点はすんなりいくとは限らない)を進めることになろう。
 

ただ、これまでにトランプ政権の個性やそれを反映した経済政策の傾向はかなり明確になったものの、他方で彼が唱える保護主義・排外主義がどの程度、実体経済に影響を及ぼすのかも測りがたく、今後出てくるとみられる様々な分析を精査する必要があるだろう。
 

この間、為替相場については、トランプが交易条件を有利にすべくドル安を指向することは分かりやすい言動であるといえる一方、財務長官がこれに相反するコメントを行うなど発足当初のトランプ体制には足並みの乱れも見受けられる。
 

いずれにせよ、トランプの国益第一主義に基づく通商政策の大転換と排外的政策が直ちに米国内景気を力強く浮揚させるとは現時点では考え難い。大統領就任前のドル高・円安もややオーバーシュート気味であった感もあり、その揺り戻しを予見する見方も根強いことから、ボラティリティが上昇しがちな市場動向にも当面、注意が必要であろう。