日本企業の生産性向上と情報技術(IT) | 経済評論家・政策アナリスト 池田健三郎オフィシャルブログ「健々囂々」(けんけんごうごう)Powered by Ameba

日本企業の生産性向上と情報技術(IT)

早いもので2016年も残すところあと1ヶ月となった。

 

労働力人口の趨勢的な減少と超少子高齢化の進行が不可避のわが国は、そうした厳しい環境下にあってもGDPの規模を維持し、成長し続けなければならないという課題に直面し続けている。


いうまでもなく経済成長に必須の要素は(1)労働力、(2)資本ストック、(3)生産性である。

 

このうち(1)については、労働力確保のターゲットを女性・高齢者に絞り、とくに女性の労働力確保のため、税制改正論議において、配偶者控除が受けられる収入額の上限である、いわゆる「103万円の壁」を150万円にまで引き上げることや、待機児童解消に関する、政策論議が喧しい。

 

(2)については日銀による空前の低金利政策が継続しており、企業の金融環境は緩和的である。その効果もあって設備投資は堅調に推移しているため、当面は資本ストックが成長の足枷となる可能性は低い。

 

(3)については、これが最も難しい。政府はインバウンド需要を取り込むために民泊の導入などの規制緩和策を打ち出したが、対象が限定的であり500兆円の日本経済の成長を牽引する柱とはなりにくい。

 

また、自由貿易促進により輸出増を実現し、農協等の既存システムに内包される非効率や生産性低下要因を構造改革により排除するという施策も打ち出されたが、米大統領選を受け米国のTPP参加がほぼ絶望的となった現在、この目論見の帰趨はきわめて不透明と言わざるを得まい。

 

このようにみると、わが国の経済成長をより確かなものとするためには、上述の3要素における(1)(2)よりも(3)に着目することが現実的ということがわかる。

 

では今後、わが国の企業セクターにおける生産性を劇的に向上させる可能性のあるものは何か。

 

これはやはり日本の「技術」というほかあるまい。これまで、技術分野で注目を集めてきたのは主として新エネルギー関係が多かったが、新エネルギー政策の一巡感や電力自由化の本格実施に伴う競争激化もあって、もはやこの分野がフロントランナーとなる可能性は必ずしも高くない。

 

かわって最近、注目を浴びているのがAI (Artificial Intelligence=人口知能)の技術であろう。現時点で、AIの定義は諸説入り乱れており単一の確定的なものは存在しないが、少なくとも「非常に高度な情報認識および処理技術」であることは間違いあるまい。

 

今後、わが国おいてAIがどのような分野に活用され、産業の生産性向上にどれほどの寄与が期待できるかについては様々な見通しが存在するが、現状をみると、製造業では、わが国の基幹産業ともいえる輸送用機械(とくに乗用車)や、産業ロボット等に対し、さらに技術を高めて広範に利用されると成長寄与が大きいことは容易に想像できよう。

 

非製造業についてはどうかというと、AIはあらゆる日本企業の「営業」を効率化することにより、その生産性を飛躍的に向上させる可能性も秘めているように思われる。

 

例えば、BtoBビジネスの場合には、(これは非製造業に限らないが)BANT情報(Budget<予算>、Authority<決裁権限>、Needs<必要性>、Timeframe<導入時期>) と呼ばれる売込み先企業に関する重要情報を、いわゆるビッグデータから抽出して、成功可能性の高い先にのみ戦力を集中投下することができれば、とかく無駄が多いといわれがちな「日本企業の営業スタイル」も大きく変化する可能性があるといえるのではないだろうか。

 

いずれにせよ、わが国の生産性向上は並大抵のことではなく、来る2017年も大きなテーマであり続けることは必定である。