保育環境の整備を阻むもの | 経済評論家・政策アナリスト 池田健三郎オフィシャルブログ「健々囂々」(けんけんごうごう)Powered by Ameba

保育環境の整備を阻むもの

自分の子供を保育園に預けようとしたが選考に漏れてしまった母親がツイートした「保育園落ちた、日本死ね」のフレーズは瞬く間に日本中を駆け巡り、国会論戦や国会前デモにまで発展する事態となりました。

少子高齢化社会の日本において、数が少ない子供を預かる保育施設については依然、供給不足状態を脱する目途が立っていません。

こうした中で政府は、2017年度から財政措置により①保育士の給与月額を1.2万円引き上げ、②経験豊富な保育士に上乗せ給付、③定期昇給を導入する保育所に助成金支給、等を行う旨の方針を固めたことが報じられました。これは、まずもって処遇改善への第一歩として評価しうると思います。

ところで私は、安倍政権が「女性活躍」、「子育て支援」を掲げる少し前から、自らの家庭における子育て経験も踏まえ、「少子高齢化社会であるわが国の成長と持続可能性を確保するためには、労働力としての移民を受け入れないことを前提とすれば、保育の質的量的拡充による女性の就労環境改善こそが必須要件である」と確信し、友人が取り組む「保育の拡充」を個人的に支援する活動を続けてきました。

その活動を通じていつも耳にしているのは、以下に掲げる「いくつかの課題」が横たわっているために、政府もかつてないほどに力を入れ女性が働き易い環境整備のために保育所の拡充を目指しているにもかかわらず、そう易々とは待機児童が解消されないというもどかしさです。

無論、保育を巡る課題は、仔細にみていけばそれこそ大小あわせて無数に存在するのでしょうが、重要なテーマについて大括りに分類すると、(1)保育行政、(2)保育施設、(3)保育士確保、そして(4)モンスター・ペアレント、の4点に集約して考えたほうがよいように思われます。

すなわち(1)保育行政については、これを担っているのが基礎自治体(市区町村)であり、それぞれの自治体毎に保育政策やルールの運用等がまちまちであることから、保育事業者はその対応にかなりのエネルギーを費消しなければならないという実情があります。

また、行政窓口の担当者によっても対応に差異があり、場合によっては深刻な問題を惹起しかねない事例もあるとききます。

さらには、最近でこそ事業主体を社会福祉法人やNPO法人に限定することをやめ、株式会社等の参入も進んできたのですが、未だに「保育は金儲けの手段とすべきでない」、「既得権を持つ社会福祉協議会と問題を起こしたくない」といった後ろ向きなスタンスをとるところも存在するようです。

こうした点を踏まえて、各自治体のリーダーには、現状の対応に問題がないかを精査すると共に、早急かつ適切な対応をとることが求められているように思われます。

次に(2)保育施設の問題ですが、これは施設に係る規制によるところが大きいといえましょう。

すなわち、認可保育所を開設する場合の物件に係る要件として、非常口の確保に加え、駅や公園からの距離、必ずしも合理的とは思えないレベルのバリアフリーや多目的トイレの設置など細かな規制が設けられており、これらを全て満たす物件を確保することは至難の業となっているのです。

無論、保育の量的拡大を図るために質を犠牲にしてはなりません。とくに安全に関する事項は当然、規制緩和の対象とすべきではないでしょう。そうだとしても、それ以外の項目については再検討の余地があるのではないでしょうか。

続いて(3)保育士確保、ですが、これは既にマスコミ報道等によって多くの人が知るところとなっています。

若者がせっかく保育士資格を得ても、給与・所得環境が必ずしも良好でないために、他の職業を選択するケースが少なくないほか、女性保育士が結婚・出産等で離職した後、復帰しようというインセンティブに乏しい現状も指摘されています。

この点については政府が、2017年度から上述のような処遇改善策等を実施することになっており、その成果を見守りたいと思います。

最後に(4)モンスター・ペアレントの問題です。

これは(3)保育士の確保に直結する事柄で、現状モンスター・ペアレントへの対応に係るストレスが看過できないレベルに到達しており、資格保持者が保育士の仕事に就きたがらない、あるいは一旦離職した後に復職したがらない要因が様々ある中で、事実上、かなり大きなウェイトを占めるのがこの問題のようです。

これは政策対応では如何ともし難い面があり、それだけに深刻な問題でありながら「打ち手無し」として積み残しになりかねない、厄介な課題だといえましょう。

メディア等がこれまで以上に適切に現状をフォローし、国民に実情を知らせ、啓発を図っていく以外には方策が無いように思われます。その点では、私を含め、メディアや報道に携わる者は十分な問題意識を持つことが大切であると考えています。