アベノミクスの成否を分かつ「2016年春闘」 | 経済評論家・政策アナリスト 池田健三郎オフィシャルブログ「健々囂々」(けんけんごうごう)Powered by Ameba

アベノミクスの成否を分かつ「2016年春闘」

アベノミクスが黒田日銀による大胆な金融緩和により幕を開けて以降、これまで曲がりなりにも「わが国経済は緩やかな回復を続けている」状態から大きく逸脱することなしに今日まで来ることができたのは、(1)金融緩和による為替円安、(2)円安に伴う輸出環境向上が他業種に拡大し大企業を中心とする企業収益が改善をみたこと、(3)企業収益改善が株価に反映されたこと、の3つの要素によるところが大きいことは多くの専門家が指摘するところです。

しかしながら他方において、個人を取り巻く経済環境という面では、いまだ楽観できる状況には至っていません。

すなわち2014年以降の2回の春闘は、政府が財界にプレッシャーを掛け賃金上昇の旗振りを行う「官製春闘」を継続してきたこともあって、昨年も大企業を中心とした「前向きな賃上げ」への努力がみられました。しかし、これが非正規雇用者や中小零細企業に大きく波及するには至らず、結果として全般的な盛り上がりを欠いた印象が強いのです。

こうしたこともあって、年後半にかけてGDPに占めるウェイトが高い個人消費が伸び悩み、これとあわせて消費税率10%引き上げスケジュールがもたらす消費マインド萎縮効果が2016年の景気を占う上での懸念材料と位置づけられる中で新年度を迎えることとなっています。

筆者は本年初におけるテレビ出演やインタビュー等で、今年の景気を占う上での当面のポイントとして「2016年春闘」を第一に指摘しています。

これは景気の鍵を握る個人消費を増加させるためには、兎にも角にも春闘における明確な賃金上昇が実現するという「分かりやすい、ポジティブなニュース」が報じられることにより、消費マインドを好転させる必要があると考えたからに他なりません。

無論、単なる賃上げのみでは効果は限定的なものにとどまる可能性があり、雇用の安定性向上、すなわち非正規雇用の歯止めなき拡大に一定の制限を設ける等により勤労者のマインドを好転させる手法もあわせて検討されるべきことは当然でしょう。

また、景気動向によっては、消費税率10%への引き上げを先送りすることも視野に入ってくる可能性を考えていたところですが、この点については、3月16日に開かれた「国際金融経済分析会合」に関する報道をみる限り、どうやら現時点において安倍政権は、これを先送りとする可能性が高まっているとみられます。

話を2016年春闘に戻しますが、去る3月16日には春闘の賃金相場形成を主導するといわれる自動車・電機等大手製造業で、労働組合の要求に対する集中回答日を迎えました。

基本給を引き上げるベースアップ(ベア)を3年連続で実施する企業は多いものの、結果としては景気の先行き不透明感を理由に、前年実績を大幅に下回る回答が相次いだというのが実態です。

また、自動車大手では非正規雇用者の日給引き上げなど、正規雇用者との格差是正に取り組む企業が増えた点は率直に評価できるものの、全体として日本経済を牽引する大企業製造業各社が景気の先行きを不透明と認識し、自社は高収益をあげているという先であっても、下請や業績不芳の同業他社への「配慮」からベアを要求の半分程度に抑制して回答する先がみられる点は気掛かりなことです。

いずれにせよ、仮に今年の春闘が盛り上がりを欠いたまま終結し、米国の景気上昇が思うに任せずそれに伴う利上げペースが鈍化し円安期待が薄らぐという事態(結果として株安傾向)になれば、安倍政権としては、今夏の参院選を睨み消費税率引き上げを先送りするだけでなく、更なる有効な景気浮揚策を国民に対し提示することが求められること必定でしょう。