消費税の軽減税率について | 経済評論家・政策アナリスト 池田健三郎オフィシャルブログ「健々囂々」(けんけんごうごう)Powered by Ameba

消費税の軽減税率について

2017年4月1日からの消費税率改定(8%→10%へ)に伴う、軽減税率の導入についての与党内の調整が12月10日の税制改正大綱の決定を控えて大詰めを迎えている。

焦点となっている軽減税率の対象品目をめぐり、自民党は生鮮食品を軸に調整する考えだが、公明党はさらに財源が必要な加工食品まで含めるよう求めており、議論は平行線を辿ってきた。

こうした中、11月25日には安倍総理の方針が自民党幹事長から公明党に提示され、社会保障と税の一体改革の枠内の財源(4千億円)で議論するという意向が伝えられたが、公明党は税財政全体で検討すべきだと主張して折り合わず、協議が続いている。

そもそも、国民全員に対し所得に関係なく一律に課す消費税は、多額の消費をする高額所得者にとっては結果的に重い負担(納税額は大きい)となり、他方で低所得者層は相対的に低い税額ですむために、国際的にも誰にでも分かりやすい非常にフェアな税制となっている。

これにわざわざ「軽減税率」を設ける意義は何なのか、「どこまでが生鮮食品で、どこからが加工食品か」といった際限のない議論は横に置き、改めて原点に立ち戻って考えてみる必要があろう。

この点について公明党は、「庶民の重税感を緩和することが目的だ」と従来から堂々と公言してきている。だが「重税感を軽減する」というのは、あくまで「感覚」に訴求する政策であり、「一律10%ではなく、庶民に配慮して幅広く軽減しました」という事実が必要なだけである。

すなわち「軽減税率の適用範囲が広ければ広いほど、庶民にアピールできる」との考えに立脚するものであるから、典型的なポピュリズムの発露であることは間違いない。

ここで厄介なのは、公明党が主張するのはあくまで庶民にとっての「重税感」の緩和であって、税収=財源は問題ではないとされている点である。

事実、今夏に財務省は、「生活必需品の購入額は年間平均20万円程度」という統計に基づき、消費税8%と10%の差額2%ポイントに相当する4000円を一律に還付する案を提示したが、これでは納税者への還元額という結果は同じでも「重税感」緩和というアピール性に乏しいことから、公明党がこの案に強硬に反対し、結局この構想は潰れてしまった。

筆者としては、複数税率と同じ効果を持ち余分なコストがかからない無難な妥協案だと思っていただけに残念であったが、公明党のアピールのために、わざわざ筋の悪い軽減税率を導入する方向で議論が進むことは望ましくないと考えている。

ところで、公明党が望む広範な軽減税率の導入が、「平和と福祉の党」を標榜する彼らの重要な拠り所である筈の「福祉」の持続可能性を揺るがしかねないことは存外知られていない。

そもそも消費税は社会保障財源であるから、これを減らす方向性での制度設計、すなわち軽減税率の導入やその範囲の拡大は、社会保障の切り下げと同義である。

しかし公明党はこの点には触れることなく、軽減税率を加工食品にまで拡大することであたかも庶民の味方になったようなアピールをしたいのであろう。

だが軽減税率の拡大は、高額所得者の消費から発生する税収までも軽減してしまうことになり、そのインパクトは庶民減税分を遥かに凌ぐ規模となる。

つまり、これまで富裕層が納付した消費税によって、低所得者層の社会福祉財源が確保されていたシステムを破壊するものであるから、結局は庶民の生活を脅かしかねない政策なのだということを殆ど誰も言わないのである。

残念ながらこれは野党も同じで、「税率の軽減につながる政策に真っ向から反対することは、来夏の参院選挙で不利になるから避けるべき」とのポピュリズムのスタンスで(一部を除き)ほぼ一致していることは情けない。

これでは中長期的見地から持続可能性を担保するという、重要な国政の議論が盛り上がろうはずもない。

これに対して、日々市民と接し、経営者として結果責任を問われる地方自治体の首長たちはもっと現実的なメッセージを発している。

例えば、熊谷俊人・千葉市長は、11月17日付フェイスブックへの投稿で、次のように述べている。

「昨今話題の消費税の軽減税率も、食料品への適用でも高所得者が減税の恩恵を強く受けること、当初見込んでいた福祉施策の財源が減ることで、予定されていた施策が一部先送りになる可能性があります。それらを理解した上でそれぞれの立場の方が自らの優先順位を持ち、施策の判断をすることが大事です」
「例えば名古屋の河村市長の減税は『庶民減税』の印象がありますが、高所得者により手厚い減税(収入300万の減税額1800円、1000万の減税額17500円)となり、低所得者は自らの減税額以上に、自分たちを対象とする福祉施策の財源が減るリスクがあることをどれだけ理解しているでしょうか」

これはまことに適切な指摘だと思われるが、国政に携わる者も、勇気をもってこうした発言をしていくべきではないだろうか。