本当に「スポーツ庁」が必要なのか | 経済評論家・政策アナリスト 池田健三郎オフィシャルブログ「健々囂々」(けんけんごうごう)Powered by Ameba

本当に「スポーツ庁」が必要なのか

(以下は、12月1日発行「大樹グループ マンスリーレポート」掲載コラムです)

先般アルゼンチンのブエノスアイレスで開催された国際オリンピック委員会(IOC)総会において、日本が7年後すなわち2020年の夏季五輪・パラリンピック開催国に選定されたことは朗報であり、率直にこれを喜びたいと思う。

かくなる上は、国を挙げて、東電福島第一原発問題を文字通り“under control”の状態に一刻も早くもっていくために、すぐに動き出す必要があることを再認識すべきであり、国際社会からの種々の懸念を払拭し、真の意味で五輪・パラリンピックの開催準備に邁進できる体制を一刻も早く整えることが急務であることは論を待たないであろう。

ところで、五輪・パラリンピックの招致成功ムードを追い風にする形で、従来からの奇妙な構想である「スポーツ庁の設置」なるプロジェクトがにわかに現実味を帯びてきていることには些か戸惑いを禁じえないところである。

最近の報道によれば、政府は文部科学省の外局(財務省における国税庁、経済産業省における特許庁などと同等の組織に該当)として「スポーツ行政を一元化する」ことを目的にスポーツ庁を本気で創設する検討に入った模様。

政府としては、スポーツ庁の創設によって、2020年夏季五輪・パラリンピックに向け、スポーツ関連の予算を「効率的に確保する」狙いがあるという。目下、2015年度の発足を目標に、文部科学省のスポーツ・青少年局を中核とし、関係各省に対する調整機能も与える方向で調整を行うとしている。

因みに、現行の国家行政組織におけるスポーツ関連政策の所管については、(1)健康・長寿社会構築のための政策および医療費の抑制政策(厚生労働省)、(2)スポーツ産業の振興(経済産業省)、(3)運動公園の整備(国土交通省)、(4)学校教育における体育の増進および国民全般におけるスポーツの健全な発展を図る政策(文部科学省)、といったように複数の省に担当が跨がる形で従来から運用されてきている。

このため、各省間の連携が悪く、それぞれがバラバラに予算執行を行っているために、「日本国のスポーツ政策」として俯瞰的に眺めた場合には、統一感を欠き、ちぐはぐなものと映るきらいがあったことは事実であろう。

こうした実情を踏まえ、当初、これらのスポーツ関係政策機能を内閣府のもとに一元化するという案も出されたものの、「それぞれを切り出して集約し直せば、中央省庁の肥大化につながりかねないとして、文科省のもとで再編することになった」(2013年11月18日付 読売新聞朝刊)という。

とはいえ、各省の機能をそれぞれから切り離すことは、既存の各省にとって、自らの権限を剥奪されることと同義であり、これは霞ヶ関の官僚が最も忌避すべき事態であることもまた事実である。

とすれば、すっきりとスポーツ政策が一元化された外局を文科省の下に設置することは、文科省自体にとっては慶賀の至りである一方、所管事項を奪われるだけの他省にとっては「是認しがたい暴挙」となって、何をおいても阻止すべき攻撃対象となる。

かくて、文科省のスポーツ関連部署以外でスポーツ庁に移管されるのは、2014年度に厚生労働省から一部事業の移管が始まる、障害者スポーツ部門など部分的なものにとどまる見通しで、実際に文科省幹部も「他省庁からの移管といっても大きなものはない。わざわざ内閣府の外局にする必要はないだろうと話している」(同新聞)という。

そうであるならば、このような中途半端なスポーツ庁をいま、新規に設置することには大いなる疑問を禁じえない。

パーキンソンの法則(官僚組織の肥大化について述べたもので、組織が拡大するのは業務が増化するからではなく組織が役人を増やすメカニズムを内包しているからであり、組織が拡大するゆえに無用な業務も増えることを皮肉を込めて指摘)を引き合いに出すまでもなく、これは無用な官僚組織の肥大化そのものであり、スポーツ行政の斎整とした一元化とは程遠い、むしろ典型的なお手盛りかつおざなりの行政改革そのものとしか言いようがない。

報道によれば、新規設立されるスポーツ庁トップの長官については、2008年に国土交通省の外局として発足した観光庁と同様、閣僚ポストとはせず、民間有識者も含め人材を募る方針などといわれているが、外局の長官といえば官僚組織では次官級に次ぐ上級局長ポストであり、その下に次長(局長級)、審議官(指定職)、課長と重要ポストが次々に新設されることになるのだから何をかいわんやである。

政府は、このような形式論や省庁間の無意味な綱引きに限られた資源を割くのではなく、冒頭述べたような真の五輪・パラリンピック成功に向けた前向きな動きを推進するための体制作りこそを急ぐべきではないだろうか。


大樹リサーチ&コンサルティング
取締役所長 池田健三郎

※文中の意見にわたる部分は筆者の個人的見解である。