企業統治と信頼性維持への警鐘か | 経済評論家・政策アナリスト 池田健三郎オフィシャルブログ「健々囂々」(けんけんごうごう)Powered by Ameba

企業統治と信頼性維持への警鐘か

(以下は、11月1日発行「大樹グループ マンスリーレポート」掲載コラムです)


このところ、多年にわたって社会的信用を積み上げてきたはずの企業において、致命的ともいえる不祥事が明るみに出るニュースが目立つ。

まずは、暴力団関係者への融資を放置していた、みずほ銀行。同行は頭取を半年間報酬なしとするほか、歴代頭取を含む30人超の役職員を処分する見通し。金融庁に提出する業務改善計画にこれらの処分とともに再発防止策を盛り込んだ上で正式発表する予定と報じられているが、果たして、過去の教訓を生かせずにかかる不祥事を再発させたメガバンクの本質的な再生がこれで可能なのか、今後注視していきたいところ。

次に、宅配便最大手ヤマト運輸。主力商品「クール宅急便」の荷物を一部の拠点で常温で仕分けるなど冷蔵・冷凍品の扱いに問題があった。積み替え時に使用する保冷コンテナを開けたままにするなど杜撰な輸送体制を放置しており、内部調査では、全国約4000か所の配送拠点のうち5%に当たる約200か所が温度管理などの社内規定に違反していたという。

同じ運輸系だが、公共交通機関として日々人命を預かるJR北海道はさらにひどい。

相次ぐ事故の発生と整備点検不良の発覚を皮切りに、備品や内部文書が一部の鉄道ショップやインターネットで販売されるなど外部に流出した事案、職員が車両の一部を破壊したり、保線職員が信号を誤動作させて進行を妨害したりしたトラブル、さらには社内で運行トラブルの原因究明や対策を検討する「安全推進委員会」が、特急列車の火災など3件のトラブルについて、原因究明などの審議をしていなかった問題など、いまや「不祥事のデパート」と化しており、その信認は地に堕ちたといえる事態となったことは記憶に新しい。

デパートといえば、最近になって、老舗百貨店を経営する阪急阪神電鉄系列の阪急阪神ホテルズでも、同社の経営する8つのホテルや系列レストラン店舗で、49品目についてメニュー上の表記と異なる安価な食材を使用し、分かっているだけで2006年からの7年間にわたって7万8000人に提供していた事案が発覚している。

「トビウオの卵をレッドキャビア」、「バナメイエビを芝エビ」、「普通のネギを九条ネギ」、「市販のオレンジジュースをフレッシュジュース」、「冷凍魚を鮮魚」などとして客に提供していたというから開いた口が塞がらない。加えて、あの名門ホテル、ザ・リッツ・カールトン大阪でも同様の事案が発覚している。

同社の社長は会見において、「意図を持って、誤った表記をして利益を得ようとした事実はございません」、「商品名だった」、「仕入れが変わった時にメニューをそのままにした」、「知識不足だった」、「会社が察知できなかった」などと苦しい弁明に終始したものの、これを額面通りに受け止める消費者がどれくらいいるだろうか。見苦しい弁明を繰り返せば繰り返すほど、企業の信認は失墜し、客離れに拍車がかかり、やがては企業を滅ぼす事態を招くことを想定できない人物を経営トップにいただくこと自体、企業統治上の大問題ではないだろうか。

これらいずれのケースをみても、単なる「怠業」とか「ヒューマン・エラー(人為的ミス)」、「担当者の錯誤(勘違い)」などでは到底済まされない、極めて深刻かつ根深い問題が横たわっていることは間違いあるまい。そして、問題が発生する現場で業務に従事するスタッフたちのモラル維持ももちろん大切なのだが、これらの事案を見る限り、もっと重要なのは、経営に携わるトップ・マネジメントの統治能力ではないだろうか。

上述のような不祥事が、ほぼ同時期にいっぺんに発覚したのは、わが国の企業統治と信認維持に対する警鐘と捉えて、この際、あらゆる企業が襟を正して企業統治を見直す機会にしてはどうだろう。

大樹リサーチ&コンサルティング
取締役所長 池田健三郎