この炎暑に節電しなきゃならない理由はなんだっけ? | 経済評論家・政策アナリスト 池田健三郎オフィシャルブログ「健々囂々」(けんけんごうごう)Powered by Ameba

この炎暑に節電しなきゃならない理由はなんだっけ?

関東地方でも梅雨が明けて、いよいよ夏本番である。さっそく熱波が襲来しており、観測史上も記録的な猛暑になっている。既に熱中症の被害もすくなからず出ており、お年寄りや小さいお子さんのいらっしゃるご家庭はとくにお気をつけいただきたいと思う。


今年は、東電福島第一原発事故がまだ終息していない影響で、例年とは違ってとくに節電が喧しくいわれている。私の銀座のオフィスなど、ビル全体の電力使用量が一定レベルを超えると、自動的にオフィスの一部のエアコンがストップさせられるという、まことにヒステリックなシステムになっており、重要な会議中であろうが、来客との商談中であろうがお構いなしにやられるのでいささか閉口している。最初からこの調子では、8月になったらどうなるのだろうか・・・。


ところで、改めてここで、これほどヒステリックかつ全国的に、四六時中、「節電しなきゃならない理由はなんだっけ?」と思っている方々も少なくないのではないか。確かに、東電福島第一原発は当然、稼動していないのだから、その分の電力供給は減る。しかし、点検などで停止している日本中の他の原発のうち、「本来この時期に動いている筈なのに止められている」ものは、中電・浜岡原発だけで、九電・玄海原発がそろそろ再稼動するかというときに、「やらせメール問題」が勃発したというのが現実の姿である。


したがって、現時点で、想定よりも電力供給が極端に落ち込んでいるという事実はないだろう。では、我々の日常生活にとってのリスクは何かというと、「夏場の一日の電力消費量がピークに達する14:00-16:00あたりの時間帯に、供給を上回る需要が発生し、一瞬でも使用量が供給量を上回ると、かつての北米で起こったような広範囲の大停電が発生し、病院等を含むすべての電気が一斉かつ長期に停止し、回復までに長期を要する事態を招いてしまうこと」であり、これを避けなければならないというだけのことであろう。


であるとすれば、現状、われわれ消費者がなすべきは、「ピーク時に供給を超える電力を使って、大規模停電を引き起こさない」、すなわちピーク・カットの努力ということに尽きるわけである。にもかかわらず、政府や電力会社の呼びかけは、「とにかく四六時中、最低15%の節電をせよ」という荒っぽいものだから、とくにまじめなお年寄りなどが熱中症の犠牲になりやすいという悲劇を生むことになる。そもそも、現状でも十分に電力が余っている夜間の時間帯まで極端な節電を実施する必要はないのだが、熱帯夜であっても節電必須ということにしているので、本来は無用の筈の節電によって、抵抗力の低い方が命を落とすという事態を招いているのだ。人間の生命よりも大切な節電など、あるわけがない。


ではなぜ、政府や電力会社はこうもヒステリックな「全国一斉、問答無用の15%節電」を飽くまで押し通すのか。その答えは、このまま放っておくと「脱原発」の流れが定着しかねない現状を「憂慮」した経産省・電力会社が国民に「原子力発電が国民生活に必要不可欠である」という認識を何とかして植えつけよう躍起になっているからであろうと思う。ここは何とかして「原発は怖いけれど、生活のためには原発の稼動はやむを得ない」という世論を形成しなければ、これまで競争のない安定経営の上に胡坐をかいてきた電力会社と、その電力各社への天下り利権を持つ経産省のメリットは大きく損なわれてしまうのだから。


上述のように、大規模停電を避けるだけならば、全54基ある日本の原発の多くは稼動しており、「14時から16時までは、極力、電力の使用を控えてくれ」ということだけで十分なのである。秋以降になって、点検を終えて再稼動できるはずの原子炉もすべてストップすることが不可避になった時点で、あらためて追加的な節電を呼びかければ十分であって、何もこの炎暑のなかを、「がまん大会」のような節電を国民に強いる必要はなかろう。かつてのアメリカの禁酒法ではないが、理不尽な号令は早く取り消して、国民の節電マインドの下で合理的なピーク・カットの手法をどうすべきか検討し、速やかに政策をシフトすべきではないかと思う。


以前から本ブログでも書いているように、私は原発推進論者でも脱原発論者でもない。そもそもどちらにすべきかを判断する材料を十分に政府・電力会社等から与えられていないのだから、何とも判断のしようがないし、そうである以上、言論人としてはTVやブログなどで無責任なことは言いたくないからだ。それでも、現状の理不尽かつヒステリックな節電号令が、招いている無用の悲劇だけは何としても再発を避けたいと願うだけなのである。


ぜひ皆さんのご意見をお聞かせください。