参院選マニフェスト[民主党2] | 経済評論家・政策アナリスト 池田健三郎オフィシャルブログ「健々囂々」(けんけんごうごう)Powered by Ameba

参院選マニフェスト[民主党2]

昨日のブログに引き続いて、民主党から公表された「参議院マニフェスト」の内容に関する簡単なコメントを纏めてみました。昨日は総論に対するコメントを掲載しましたので、今日は各論の項目ごとのコメントを掲載いたします。


・「強い経済」について
 成長戦略(2020年までのGDP伸び率平均値)をベースにしつつも、個別項目では明確な期限の設定がない。13の各論を列記するも具体性にはかなりバラツキがみられる。新政策の財源は「強い財政」に掲げた「既存予算の削減または収入増によって捻出」との包括的記載のみで、やや大雑把な感じは否定できない。
 一般的な政策項目に加え、「閣僚のトップセールスによるインフラの海外輸出促進」など政権党らしい政策項目も見受けられる。ただし、目標成長率を数値で提示しているのとは対照的に、個別項目となると具体性に乏しい箇所、とくに政策の実現メカニズムに対する説明不足が目立つため、各々の施策が具体的にどのように成長率伸長に寄与するのかが不透明。成長戦略と照らし合わせても、疑問点がいろいろ出てくる。


・「ムダづかい/行政刷新、強い財政」について
 財政の計数管理面では中長期を含めた一応の期限が設定されている。一方、行政刷新関係の個別項目では、明確な期限の設定が無く、各論を列記するも具体性にはかなりバラツキがみられる。行政刷新により財源をいくら捻出して新政策に振り向けるのか、総枠の提示がないので、政策の全体像が掴みにくい。民主党は大きな政府を目指すのか、小さな政府を前提とするのかも不明確。
 消費税を含む税制の抜本改革を掲げるも、改革の大枠すら示されておらず、事実上の白紙からのスタートであることを宣言した形。政策の優先順位の明確化も今後の課題とされ、8ヶ月間の政権運営の成果が窺えない。


・「政治改革」について

 他のテーマに比べ、提示された政策項目は具体的。財源はとくに要しない項目が多い。但し、期限の明示がない。
 国民の政治不信の増大を受けた、議員定数削減や歳費の日割り化、企業団体献金の廃止など踏み込んだ内容が盛り込まれた点は評価に値する。但し、1票の格差是正に数値基準(どの程度の格差まで容認するか)が欠落しているのは踏み込み不足の感。これは、民主主義で一番重要な、一票の価値の平等に関するものなので、せめて2倍以内の格差にしないと問題解決にはならないと思うのだが・・・。


・「外交・安全保障」について
 政策の性質上、やむを得ない面もあるのだが、それでも政策項目としては理念的なものが多く、期限・財源が提示されている項目は中期防策定を除き無しという状況。
 日米同盟深化、沖縄の負担軽減、東アジア共同体構想など重要施策が羅列されているが、具体的な実現プロセスは提示されず、理念論の域を出ていない感は拭えない。


・「子育て・教育」について
 期限、財源の明示なし。政策項目については、子ども手当の制度改正は具体的に提示。項目自体はニーズが高いものが多いにもかかわらず、具体性や実現プロセスの面で不透明感が残る。これでは子育て不安を抱える人々への訴求力は十分なものにならないのでは・・・。


・「年金・医療・介護・障がい者福祉」について
 11の政策項目が羅列されるも、実施に必要な財源が明示されていないので、実効性に不安が残る。期限については、「消えた年金」対策のみの提示で、いつまでに実施するつもりなのかが不明。
 当然のことながら国民の生命に関わる、自民党政権以来の重要課題を多く含むが、具体的手法の提示に乏しく、項目のみの提示に近いものが多いので、これで「安心・安全」が確保できるのか、疑問なしとしない。


・「雇用」について
 4つの政策項目を提示するも、実施に必要な財源の明示がない。期限の明示については、「求職者支援制度の法制化」のみにとどまっている。国民生活に深く関わる、切実な課題を多く含むが、具体的手法の提示に乏しく、実現プロセスの面でも不透明感が残る。


・「農林水産業」について
 5項目の各論を列記。期限及び財源の明示はない。多額の財政措置が必須となる戸別所得補償制度の拡充に対する財源が明示されていない点では、実現に不透明感が漂っている。


・「郵政改革」について
 参院選で単独過半数を取れない場合に国民新党との連立が不可欠となるだけに、その場合に備えた歯切れの良い提示となっており、次期国会での郵政改革法案成立を明確にコミット。
 しかしながら、郵政問題は本来ならば時間をかけて十分な議論を行い、国民的な理解を得た上で制度改正を図るべき事項であり、法案の取扱いのみの提示では分かりにくく、不透明感が漂う。そもそも連立合意を優先する形でのスピード審議をマニフェストで提示すること自体、妥当性に疑問なしとせず。


・「地域主権」について
 地域主権は民主党政策の一丁目一番地である割には、内容は先進性・発展性に乏しいとの印象。一括交付金についてのみ来年度実施を提示したものの、他項目は期限及び総額の提示なし。
 総論では「大胆な地域主権改革を実行します」としつつも、旧マニフェストに提示された「国と地方との対等関係の担保」など未実現項目が欠落するなど、地域主権への取り組みに進化が窺えないのは残念である。


・「交通政策・公共事業」について
 6項目の各論を列記。期限及び財源の明示はない。
 「交通基本法」など表現が抽象的で政策内容が想定し難いものや、「できるだけダムにたよらない治水」など実現可能性が乏しい項目では、もって回ったような苦しい表現も散見される。 


以上が民主党マニフェストの各論に対する、私のコメントです。

全体に、政権与党になりリアリティが求められるせいか、課題に対して及び腰になっているような印象を受け、野党時代の威勢のよさは消えうせたなあという感じは否めません。それもある意味では致し方ないことですが、現実性を重んじるならば、もっと期限や財源を具体的に記載すべきだったと感じています。


というわけで、総論、各論を通じての、私のマニフェストの総合評価は、及第点ギリギリの60点といったところでしょうか。


このマニフェストのなかでクリアになっていない点は、ぜひとも各地で開催される公開討論会などで、直接討論を行い、有権者の面前でクリアにされることを願っています。