呆れた市長さん | 経済評論家・政策アナリスト 池田健三郎オフィシャルブログ「健々囂々」(けんけんごうごう)Powered by Ameba

呆れた市長さん

早いもので今日から師走です。さすがに私も教師の端くれでもあるので、バタバタと走り回らないと仕事が片付きそうにありません。というわけで、今日も大学に出講するために7時に自宅を出て近くの東急線の駅へ。私が通勤に利用している駅は、東京都と神奈川県の境にきわめて近い、神奈川県の大和市にあります。


そこで、いつもと違って「市長報告」と書かれた見慣れない「のぼり旗」が立てられているのが目に留まりました。よくみると、大和市の市長さんがメガホンを持って何やら演説らしきものをしていますが、声がこもって何も聞き取れませんでした。傍らでは彼の秘書(?)のような方が、必死にビラを配っています。


しかし、朝の7時といえば通勤ラッシュ真っ只中ですので、誰一人彼の演説に聞き入る人はおらず、足早に駅の構内に消えていきます。「寒いのに市長さんもご苦労なことだなあ」と私も、そのときは反射的にそう思って、電車に乗り込みましたが、しばらくたって「そういえば・・・」と思い返しました。そう、これが「今、地元で問題になっている『市長報告』だ!」とそこで気がついたのです。


政治家が、駅や商店街など人が集まる場所で演説するのは、一般的によく見られる光景です。しかしこれは、政治家や政治団体が有権者や市民に向けて行う広報活動、すなわち「政治活動」であって、断じて「行政行為」ではありません。


何が問題なのかといえば、傍らでビラを配っていたのは「市の職員」ではないかという疑惑が持ち上がっていることです。彼がもし、市長の支持者(ボランティア)や政治団体の職員、あるいは市長の私設秘書のような立場であれば、これは通常の政治活動として何ら問題になりません。


しかし、税金で雇われる地方公務員であり、全体の奉仕者すなわち特定の政治家や政治団体のために働いてはならないと法律で決められている人を、市長が(黙示的であれ)その権力を背景に自身の「街頭演説」のビラ配りとして使うことは、あってはならないことです。このことは、地元のメディアなどでもとりあげられて、問題になっていたと記憶していましたが、その「現場」を目撃したのは初めてのことでした。


市長自身は、おそらく「これは市長として行政の現状を市民に『報告』している業務、すなわち行政行為の一環であって、自らの政治家としての広報活動ではない」との論理を立てて突っ張っているようですが、あのような「市長報告」をまともに最後まで聞ける状況にある人は、誰一人としておりませんから、「報告」をする効果は限りなくゼロに近いでしょう(そもそもあんなやり方ではまともに聴こえません)。それでもなお、駅前で「報告」する意味があるとすれば、それは「市長は政治家として、寒いのに頑張っている」との印象を市民に植え付け、かつ自身の名前を単に売り込むだけの、次の選挙を意識したいわば売名行為に他ならないといわれても仕方がないでしょう。


このようなことが問題にされながら、何らの是正もされずにまかり通っているとは、大和市民もまったくなめられたものだと、少し悲しい気分になりました。それとともに、特定の政治家のために「公務」と呼べないような「ビラ配り」に強制的に駆り出されている市の職員の方は、本当にお気の毒としか言いようがありません。


いま、日本では、9月に政権が交代し、「事業仕分け」などの形で税金や人的資源(公務員)の使い方、使われ方が、かつてないほど厳しく問われているというのに、この市長さんの鈍感さはいったい何でしょうか。驚きを通り越して呆れてしまいました。まさにKY(空気読めない)を地で行っていますね。


ここはひとつ、地方自治における二元代表制のもう一方の代表(地方自治では市民から直接選ばれる市町村長と市町村議会議員のそれぞれが市民の代表であると位置づけられます)である、市議会議員の良識を窺ってみたいところですがどうなりますことやら・・・。