新政権への体制移行はじまる | 経済評論家・政策アナリスト 池田健三郎オフィシャルブログ「健々囂々」(けんけんごうごう)Powered by Ameba

新政権への体制移行はじまる

劇的な衆議院選挙から1週間が経ち、月も変わって、永田町では政権交代に向けた体制移行が本格化しつつあります。


すでに鳩山新内閣の重要閣僚の一部は固まりつつあり、党の役職も小沢幹事長が内定するなど、着々と新与党サイドの作業が進められている様子が報じられ、当然のことながら新聞・テレビのニュースは民主党関連の情報が大部分を占めています。


なかでも麻生内閣の下で決められた今年度補正予算の一部が「執行停止」とされたことや、来年度予算の概算要求の棚上げ、財務省幹部を呼んで予算に関する総合的なヒアリングが開始されたことなどは、霞ヶ関の官僚たちに政権交代を実感させるとともに、大きなインパクトをもたらしていると考えられます。


民主党が選挙時の「マニフェスト」で国民に対して約束した各々の政策項目を、新内閣の下で実行に移していくにあたっての成否は、従来のような官僚主導ではなく、いかに政治家が主導権を発揮し、官僚たちを使いこなしていくか、言い換えれば、新しい「政と官」の関係をいかに構築するかにかかっているように思われます。


これは、明治期から脈々と続いて生きた官僚の思考原理や行動パターンを根本から変えようというプロジェクトだけに、そう易々とは実現できないでしょうが、従来のように、政治家がいわゆる「美味しいところ」だけをとって、後の面倒な仕事を官僚に押し付ける、あるいは細かいことは面倒なので勉強せずに専門知識のある官僚に任せてしまうといった、逃げ腰のスタンスを転換し、政策の具体的なことがら、要するに細部にまでコミットし、しつこくしつこく細部にこだわりを見せるかどうかがポイントになることでしょう。


あらゆる政策のうち「本当の戦略こそ、細部に宿っている」というのは、政策関係者の間では常識なのです。


ちなみに、こうした新体制移行における内閣のガバナンスを企画・立案する「国家戦略局」の担当大臣兼副総理に内定した菅直人・民主党代表代行は、政権移行に備えて英国を視察し、政と官のシステムや政治主導の体制について、かなり突っ込んだ調査を終えているようです、昨日付の日本経済新聞では、この英国流制度を知るための参照資料として、財務省の高田氏という官僚が、かつて英国大蔵省に出向した経験をまとめたペーパーを、ウェブのアドレスつきで紹介していました。


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私もざっと目を通しましたが、英国では大臣となった政治家が、役所を代表して、ひとりで国会に対して全責任を負う(答弁などを部下の官僚に丸投げせず、すべて自分の責任でやる)体制の下で、彼の部下の財務官僚たちは日本のような無駄な国会待機や恐ろしいほどの長時間残業とは無縁(そもそも大臣以外の役所の人間は、政治家との接触ができないルール)ながらも、充実した、やりがいのある官僚としての日々を送っている様子が読み取れる、貴重な論文です。時間のある方は、今後の日本の「政治主導」を考えるうえでも示唆に富んだ内容と思われますので、ぜひご一読をお勧めいたします。


しかし、仮にこの「英国流ガバナンス」をそのまま日本に導入しようとした場合、官僚は利権も減るが個人の精神的・肉体的負担も大幅に軽減されます。その一方で、閣僚として各省を担当する大臣たちは、膨大な所管事項に対して官僚のサポートを受けつつも、国会や議員に対しては説明を人任せにすることが一切許されないという厳しい状況のもとで職務を遂行しなければなりませんから、並みの能力・努力では役に立たないということもよく分かります。民主党から閣僚となるべき政治家たちに、果たしてそこまでの覚悟があるのかどうか、近いうちにそのあたりも厳しく問われることになりそうです。


さしあたり、組閣時の就任記者会見で、後ろから秘書官が差し出した「就任の弁」の作文をそのまま棒読みするような大臣がいないかどうか、そのあたりが分かりやすいチェックポイントになるのではないでしょうか。