北方領土問題進展なしの要因は | 経済評論家・政策アナリスト 池田健三郎オフィシャルブログ「健々囂々」(けんけんごうごう)Powered by Ameba

北方領土問題進展なしの要因は

イタリアで行われている主要国首脳会議(サミット)は、それ自体は当然、マルチラテラル(多国間)協議の場ですが、それに負けず劣らず重要なのは、サミット期間中に様々な形でセットされるバイラテラル(二国間)協議です。


これには様々な形があり、公式の場として堂々と行う場合もあれば、非公式にこっそりと行われる場合もあり、状況によっては、例えば大きなレセプションを少しの間抜け出して行う、などといった様々な形が考えられますが、要は他国を交えず、両国が相対でじっくりと意思疎通を図るための場であるともいえ、首脳全員が打ち揃っての華やかな「表の会議」よりも、機微に触れる重要案件が登場することが多いのもの特徴といえます。


ところで、日本のロシアとの間に横たわる「懸案事項」といえば、誰に聞いても即座に「北方領土返還交渉」と答えが出るのではないでしょうか。


この問題はこれまで両国間で粘り強い交渉が行われ、ロシアの大統領がメドベージェフ氏に代わってから、急速に議論が進展してきたことは報じられている通りです。大統領は本年2月に行った極東サハリンでの麻生総理との会談において、「新たな独創的で型にはまらないアプローチ」での解決を目指す考えを示し、日本もこれに同意。この経過を踏まえて日本側は今回の会談を「サハリン会談を受けた具体的内容について説明する場」と位置付けて臨んだのですが、完全に期待外れとなりました。大統領は、「建設的な形で話し合いを続ける用意がある」とは述べたものの、解決に向けた具体的提案はなく、何ら進展はなかったと各メディアが報じています。


しかし考えてみれば、国民の支持率が2割を切り、追い込まれての衆議院解散総選挙が目前に迫り、しかも現在の政権が選挙に勝利して秋以降も政権を継続できるとみる人が殆どいないという麻生政権の惨状を、交渉上手のロシアが知らないはずもなく、またこうした状況を踏まえて、「いつ辞めるか分からない人」に対して、ロシア国民がセンシティブになっている領土問題で一挙に譲歩案を出すなど、ありえないことでしょう。


ですからサミットなどの重要国際会議の場には、少なくとも「当面は政権の舵取りをするであろう人」を、首脳として送り込まなければ、政策の継続性や国家としてのコミットメントの重要性とのバランスがとれないことは容易に理解できることです。


その意味で今回の日露交渉の失敗は、交渉方式そのものや戦略に問題があったというよりは、むしろ「相手にされない人を相手役として送りこんだこと」に主たる敗因があることは否定できないのではないでしょうか。だからといって、選挙で落ちて地位を簡単に失うような政治家ではなく専門知識を持った外務官僚にすべて任せればよいというわけにも勿論いかないのですが・・・。