雇用のミスマッチと規制緩和 | 経済評論家・政策アナリスト 池田健三郎オフィシャルブログ「健々囂々」(けんけんごうごう)Powered by Ameba

雇用のミスマッチと規制緩和

一般的に言って慢性的な人手不足の業種といえば、農業、警備保障、畜産(養豚)、それにタクシー・ドライバーなどがその例としてよく挙げられている。今日の急激な景気低迷に伴って、これらの業種の企業の中には、今こそとばかりに求人数を増やしているところもあるようだ。


先ほどテレビ東京のWBSをみていたら、景気低迷による雇用調整で多くの派遣労働者が職を失ったことに伴い、上に掲げたような慢性的人手不足に苛まれていた業界の人材確保が、はたして少しでも容易になったのかどうかについてレポートしていた。


この番組でとりあげられていたのは農業。結論としては、農業経営者側の期待とは裏腹に、「求人需要を満たすだけの十分な求職者はまったく現れていない」とのこと。つまりは、失業率が高まる中にあっても、農業については、雇用のミスマッチは依然として解消される気配はないということになる。


そもそも働く場としての農業が敬遠される背景として、「農業はなかなか儲からない」、「植物と自然が相手なので、長期休暇などがとりにくい」、「冷暖房も無いところでの労働がきつい」、「豊凶の落差により価格変動が激しく、経営が安定しない」などがあると考えられる。


こうした農業特有の問題を解決する手法のひとつには、ある程度の規模をもって、合理的な生産システムを運用することが必要だと指摘されて久しい。そのためには、ある程度の整備投資をしたうえで労働者を確保し、交代制勤務など企業的な生産手法を採り入れることが必要になる。このことは株式会社による農業経営を拡大することや、農協をはさんだ複雑な産品の流通システムを改めるなど、従来型の農業経営から大きく脱皮することが条件となるのは当然である。


もちろん、その前提として、様々な規制でがんじがらめになっている農業を自由化する規制緩和も必要となる。


と、ここまで書くと、ここにきて急速に反動がでている「小泉純一郎的な新自由主義」を推奨しているように思われるかもしれないが、そうではない。


私が問題視しているのは、小泉改革の新自由主義的政策は、本来ならば規制をもっと緩和して自由度を高めるべき項目(例えば農業)でそれをせずに、逆に規制緩和に慎重さが求められるジャンル(例えば派遣労働者が使える業種の数)で緩和をやりすぎたこと、いわば「薬の処方間違い」的規制緩和である。いくらよい薬だといっても処方を間違えたのでは、かえって病状を悪化させてしまうのは当たり前のことである。


この厳しい状況に至ってなお「規制緩和」というと、「この時代にお前は何を言っているのだ」と目の色を変えて怒る人がいるかもしれないが、上述したような理由から、こういう局面であればこそ緩和が必要な規制は当然ある。もちろん逆に規制を緩和し過ぎたところは、再び規制を強化する政策をとるべきなことは言うまでも無い。


麻生政権が何をやるのかわからないところの一つは、何を緩和し、何を新たに規制するのか、それはどのような理念に基づいているのか、といった、総理の根本的な「何をやりたい」ビジョンが見えないので、政策にメリハリと勢いがなくブレブレになっているように見えるところから来ているということなのだろう。