※画像はくだんの本
立秋を過ぎ暦の上では秋だが、現実的にはまだ盛夏である。
今年の夏は暑い!
まさに酷暑である。
例年そうなのか、今年は特別か問題にしても詮無いが、年々その暑さが酷くなるのではないだろうか?
そして嫁をもらって初めての夏である。
憲さん、去年はクーラーを一夏に3回✕2時間使用した。
結構使った方である。
しかし、今年はそうはいかない。
嫁がその体型に見合って大変な暑がりなのである。
冬でも布団を掛けずに寝るような暑がりなのだ。
なので、結局家にいる時間は全て空調をつけたままとなっている。
次回の電気代の請求書をみるのが頗る恐怖だ。
しかし、嫁が言うには「クーラーをつけないで熱中症にかかって死んだり、倒れて病院に担ぎ込まれたほうがどれだけ金がかかるかわからない」とのこと。
確かに言われてみればその通りである。
テレビなどの天気予報でも「生死に関わるので、躊躇せずエアコンを入れてください」と喧伝している。
しかし、であるなら国策として各家庭にエアコン設置費用とその電気料金を国が負担するのが筋ではないだろうか?
憲法25条1項には「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と謳われている。
これを逆さまに読めば「国はすべての国民に、健康で文化的な最低限度の生活を営まさせる義務がある。」となるのだ。
この酷暑でエアコン無しに生活するのは少なくとも「健康的な最低限度の生活」とは言えないであろう。
あの国営放送ですら「エアコンを使用せよ!」といっているのであるし。
是非とも国会で検討してほしいものである。
ということで、今年の夏は身体がエアコンに慣れてしまい、暑い外に出るのが大層億劫になってしまった。
というか、嫁のエアコン依存に付き合わされたせいで、憲さんもエアコン依存になってしまったのかもしれない。
今年の夏休みは無駄に長いが、その間実家に草むしりに行ったのと、墓参、そして憲さん邸の近所の島忠の中にあるしまむらに、嫁の5Lのデカパンを買いに行ったくらいしか外出していない。
その島忠に行く道すがら図書館があるので立ち寄った。
嫁にも図書館カードを作らせるためである。
嫁はもっぱら読書はしない。
「老眼で字が見えず、読むだけで頭が痛くなる」のだそうだ。
というわけで、悲しいかな嫁の図書カードも憲さんの財布の中に収まることになる。
これで本も視聴覚資料も倍借りられることになる。
しめしめ!
嫁をもらう数少ない効用の一つである。
図書館ではよく企画物の本棚がある。
司書やスタッフが定期的にテーマを決めてそれにちなんだ本を書棚に並べるのである。
憲さん、その書棚をみるのが結構楽しみである。
すると「8月の特集テーマは『熱/冷』です」としてある。
参考
↓
東葛西図書館特集本
https://www.library.city.edogawa.tokyo.jp/toshow/introduction/html/edg_h_kasai.php#book
なんのことはない他愛もないテーマだったが、そこに並べられている一冊に憲さんの目が止まった。
それがこれである!
↓
『ごきげん文藝 温泉天国』
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784309026428
「熱」のテーマに沿うものなのだろう。
なんの気なしに手を伸ばしてみた。
本来であれば夏休みは涼しい長野の高原にでも行って温泉に浸かって優雅に過ごしたかったのだが、これを読んで温泉に行く気になろうという企みである。
夏休みは読書三昧と決め込んで、その合間に読む「口直し」ならぬ「目直し」程度と思って借りたのだが、読んでハマってしまった。
この本、古今「(日本の)東西」の温泉にまつわる著名文筆家による随筆集である。
ご存知のとおり、憲さんは無類の温泉好きでさらに自称「随筆家」である。
これを読まない訳にはいくまい。
読んでみるとなるほど、玉石混淆である。
大作家といえども、本業は小説書きで随筆なぞは余戯で書いているのか、あまり面白くないものもあれば、温泉通の憲さんをして「うーん!」と唸らされるものもあった。
その中でも憲さん一推しはやはり、つげ義春である。
彼は稀代の漫画家であると同時に随筆家としても大変優れていよう。
彼の「丹沢の鉱泉」という温泉、というか鉱泉にまつわる随筆を読んで、憲さん「やはり、つげ義春はいい!」とこれまた唸ってしまった。
そのエッセンスを皆さんにもここで紹介しよう。
こうである。
以下、長いが本著からつげ義春の「丹沢の鉱泉」を引用する
バスを降りると、山峡の宮ヶ瀬へ続く街道に面して酒屋と食品店が二軒並んでいた。街道の片側は崖の下に小鮎川が流れているが、樹木に覆われて見えない。街道に面して人家は六、七軒しかなく淋しい。二軒の店屋の間に細い路地があり、その奥へ百メートルほど行くと山にぶつかり袋小路のように行き止って、二十戸ほどの集落があった。大都会の厚木に近いから集落は田舎じみてはいない。その人家より一段下った沢の底に、元湯旅館と渓間(たにま)屋の二軒がくっつくように並んでいる。沢といっても幅は一メートルほどで水は澄んでいるが、ただのドブ川を見るようで風情も何もない。人家に囲まれて景色はまことにつまらない。元湯旅館のほうは改築してきれいだが、渓間屋はまったくの田舎宿。道から一 段下っているので、二階の窓を通して客問が見え、畳が傾いている。反対側の窓の方に回ると、沢をはさんで竹藪が宿に覆いかぶさり蜘蛛の巣だらけ。斜め向いに墓場。やりきれないほど侘しい。近くに飯山鉱泉、七沢鉱泉があるから、こんな侘しい所に泊る者はいないのではないか。しかし、暗くて惨めで貧乏たらしさに惹かれる私は、穴場を発見したようで嬉しくなった。屈託したときはここへ来て、太い溜息でもつくには格好の所である。自分が宿屋業をするときは、こういう感じでやりたいと思った。
(中略)
小屋からさらに百メートルほど行くと、方丈くらいの小さなお堂があった。昔この谷間で良弁僧正が修行をしていたという。その縁りの堂だろうか。すぐそばに崩れかかった廃屋が草に埋もれていた。ここまで来るととても人は住めそうにないのに、誰か住んでいたのだろうか。ここで生活をするには近くに店屋もない。自給の畑作りするスペースもない。陽も射さず健康に悪い。よほど自分に絶望し、自分を棄てる覚悟でなくては住めないのではないかと見て思った。
じわじわぬかるんだ道を草を分けても百メートルほど行くと、沢は行き詰って滝が落ちていた。落差十五メートルほど、水量も細い。三方を切り立つ岩壁に囲まれて滝は少し横にひっこんで見えにくい。そのためかなり高い位置に赤い小さな橋が架けられ滝を見物するよう工夫がしてあるが、そうまでして見るほどの滝ではない。しかし、この盲腸の奥のようない小路に佇んでいると、なんともいい表しようのない不思議な感銘を覚える。 あまりに陰々滅々として参ってしまうせいだろうか。自然の景色でこんな陰気は見たことがない。まったく救いがない。身も心も泥のように重くなる。
−善人なおもて往生をとぐ
いわんや悪人をや−
唐突に親鸞のことばが浮かんだりして、ここで坊さんが修行をしていたというのが分ったような気がした。
(中略)
一般の行楽客にとっては、暗い谷間とちっぽけな滝、中津川の川原は殺風景でこれほどつまらない所はないだろうが、私はここが、特に滝やお堂がすっかり気に入った。鉱泉業のことはともかくとして、こんな絶望的な場所があるのを発見したのは、なんだか救われるような気がした。
以上、引用おわり。
まさに、つげワールド満展開である!
この名随筆があのつげ義春の傑作『無能の人』の作画と心象に繋がるのか!と思わず膝打ちした。
参考
↓
【『無能の人』】
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E7%84%A1%E8%83%BD%E3%81%AE%E4%BA%BA
これを読んだだけでも、この『温泉天国』読んだ価値があった。
また気候がよくなったら、つげ義春のフィールドワークに丹沢に出かけよう!
参考
↓
憲さん随筆
つげ義春フィールドワーク ~西部田村を歩く~
https://kensanzuihitu.livedoor.blog/archives/26496383.html
あと、この本で憲さんを唸らせた随筆は吉川英治の『ぬる川の宿』、太宰治『美少女』などである。
さすが文豪だけある。
また、種村季弘さんの『熱海秘湯群漫遊記』は熱海マニアの憲さんには大変参考になった。
角田光代さんは憲さんと同世代の作家だが、彼女の『記憶9800円×2』はしみじみと読ませる。
ところで、ノーベル文学賞候補として毎年取り沙汰される村上春樹氏も『温泉だらけ』を載せているが、憲さん初めて村上春樹氏の文章を読んだが、中学生が書いたようでビックリした。
これまた作家の「余戯」なのであろう。
これも勉強になりましたな。
いずれにせよ、温泉好きの方には暇つぶしに読まれても損はない一冊です。
是非ともどうぞ。
どーよっ!
どーなのよっ?
※購入はこちらから
↓
『ごきげん文藝 温泉天国』
https://a.r10.to/hN3VLH
※せっかくなのでここで、この本で紹介されている随筆とその作者、そして紹介されている温泉を挙げておく。
『ごきげん文藝 温泉天国目次
湯のつかり方(池内紀・各地)
カムイワッカ湯の滝―落下する滝、流れる川すべてが純ナマの温泉(嵐山光三郎・北海道)
ぬる川の宿(吉川英治・青森県温川温泉 )
湯船のなかの布袋さん(四谷シモン・青森県大鰐温泉、蔦温泉、山形県湯田川温泉)
花巻温泉(高村光太郎・岩手県)
記憶9800円×2(角田光代・栃木県日光)
川の温泉(柳美里・栃木県鬼怒川温泉)
美しき旅について(室生犀星・群馬県梨木温泉)
草津温泉(横尾忠則・群馬県)
伊香保のろ天風呂(山下清・栃木県)
上諏訪・飯田(川本三郎・長野県)
村の温泉(平林たい子・長野県諏訪温泉)
渋温泉の秋(小川未明・長野県)
増富温泉場(井伏鱒二・山梨県)
美少女(太宰治・山梨県湯村温泉)
浅草観音温泉(武田百合子・東京都〈現在廃業〉)
温泉雑記(抄)(岡本綺堂・神奈川県箱根)
硫黄泉(斎藤茂太・各地)
丹沢の鉱泉(つげ義春・神奈川県)
熱海秘湯群漫遊記(種村季弘・静岡県)
湯ヶ島温泉(川端康成・静岡県)
温浴(坂口安吾・静岡県伊東温泉)
温泉(北杜夫・三重県長島温泉)
母と(松本英子〈漫画〉・岐阜県下呂温泉)
濃き闇の空間に湧く「再生の湯」和歌山県・湯の峯温泉(荒俣宏)
春の温泉(岡本かの子・各地)
ふるさと城崎温泉(植村直己・兵庫県)
奥津温泉雪見酒(田村隆一・岡山県)
別府の地獄めぐり(田辺聖子・大分県)
温泉だらけ(村上春樹・アイスランド)
温泉で泳いだ話(池波正太郎・上越国境H温泉)
女の温泉(田山花袋・各地)
以上