※画像は今はなき(2026年現在)竹岡津浜海水浴場

※この随筆は2007年8月9日に執筆したものに加筆修正しました。
  
憲さん海水浴に行った。

憲さんの海水浴のスタイルは生半可な遊びではない。

先日の日曜日、友人に誘われ内房の竹岡に海水浴に出かけた。穴場の海水浴場があるそうだ。

千葉駅から内房線に乗って1時間半、竹岡駅に着く。真新しいトイレと待合のベンチだけのすかすかの無人駅だ。

この駅、1995年夏シーズンの中山エミリがモデルの青春18切符のポスターの撮影場所になったようだが、房総の寂しい駅に変わりない。

参考
【竹岡駅】
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AB%B9%E5%B2%A1%E9%A7%85

この駅を降りて千葉方面に戻るように国道を歩いて15分くらいのところに小さな海水浴場がある。竹岡津浜海水浴場だ。

参考
【津浜海水浴場】
https://4travel.jp/dm_shisetsu/10032246

※2026年現在、この津浜海水浴場は閉鎖している。

参考
津浜海水浴場開設休止についてお知らせ
https://www.city.futtsu.lg.jp/0000004529.html

国道から海岸に降りる急な坂道を下ると、こじんまりとしたビーチが現れる。

ビーチの両端は磯が突き出している。お世辞にも浜はきれいとはいえないが、海岸に変化のある憲さん好みのビーチだ。

浜には監視小屋と海の家が一軒。シーズンというのに客の出も多くない。

まずは海の家に落ち着く。

海水浴素人はここで浜にレジャーシートを敷いて荷を置くが、海水浴玄人はそんな事はしない。すぐに海の家の休憩室を借りる。

使用料千円。

千円で休憩し放題、荷物置き放題、着替えし放題のシャワー浴び放題である。

たった千円でビーチの砂だらけのレジャーシート上のしょぼい砂浜ライフを、海の家という雲上の特権階級生活から睥睨できる快感を味わえるのである。これを使わない手はない。

畳敷きの休憩室でまずはゆっくり旅の疲れを癒す。慌てない。

そして、ゆっくりと水着に着替える。水着のゴムがくたびれているのはご愛嬌だ。

万札がパンパンに詰まった財布を海の家の帳場に預け、やおらビーチに下り立つ。もちろん素足である。

ここで、海水浴素人は太陽に照りつけられた砂が熱いからと、ビーサンを履いて砂浜を歩くが、邪道である。

火傷しそうなほど熱い砂を歩くことにより、この永い梅雨で湿りきった我が足の裏の水虫が、殺菌され退治される効果があるといわれているのだ。

それにビーチサンダルを履いて泳ぐことなどできないのだから履くだけわずらわしい。

熱さを我慢しながら波の寄せる湿った砂にたどり着く。

まずは膝まで海水に浸かり水温を確かめる。絶好の海水浴向けの水温である。しかし、慌てない。

余念なく体操する。急に海水に浸かると心臓がビックリしてしまう。

体操が終わると、持ってきた水中メガネとシュノーケルを装着し、海水に全身を浸す。

ムム!透明度がほとんどない!

以前行った式根島の海は透き通るほど透明で、美しかったが、千葉の海を伊豆七島の海と比べるのは酷だが、それでも透明度がなさ過ぎる。

ガイドには透明度が高いと書かれていたが、なぜだろう?潮の流れの関係だろうか?

いずれにせよ、透明度が期待できないのであればあとはひたすら泳ぐだけである。

シュノーケルははずし、水中メガネだけにして身軽になる。

家族連れなどは、波打ち際でちゃぷちゃぷ遊ぶ程度だし、泳いでも飛び込み台までである。それにカップルは浜で甲羅干しに余念がないが、大人の海水浴はそんな子供じみた甘いものではない。ただひたすら泳ぐのだ。

当然、区画のブイまで泳いでいるものなど誰もいないが、憲さんは果敢にも挑戦する。基本は平泳ぎだが、時にクロール、時に背面泳ぎと。

海水の冷たさと照りつける太陽が身体に心地よい。

水泳という全身運動をして心臓はバクバクだが、不快な汗を感じないのも水泳の長所である。

しか~しっ!

憲さんが気持ちよく沖を泳いでいると何と!ライフセーバーのアンちゃんがボードに乗って近づいてくるではないか!

何かい?憲さんが溺れているようにでも見えたのか?
 
このカッパの憲さんが!

「何しにきた!」憲さん睨みつける。

「いえ、様子を見にきたのですが⋯」

「何を?!俺は大丈夫だ!」

「そうですか⋯」

もちろん、本当に溺れたときは助けてもらわねばならない。しかし、ゆっくりのんびりと水泳を楽しんでいるのにライフセーバーが勘違いして近づいてくるのは心外である。

しかし、職務とはいえご苦労なことである。

海水浴はルールを守らねばならない。

遊泳禁止のときは泳がない。遊泳エリアからは出ない。溺れたまね、悪ふざけはしない。飲酒しての遊泳は絶対にしない。それさえ守ればそんなに危険なものではない。

後で連れに聞いた話だが、その時浜では海水浴客が「おっ!海坊主がライフセーバーに注意されてるぞ!」と指を差しながら憲さんは注目の的だったようだ。

目立つ男はこれだから辛い。

かれこれ2時間、泳ぎまくる。あまり疲れも感じなかったが、さすがに腹が空いてきた。

十分堪能したな。

そう確認すると、海の家に引き上げる。

温水シャワーも休憩室利用料千円の内に入っているので、ゆっくりと使わせてもらう。

海水を洗い落とし、Tシャツ、短パンに着替えると休憩室の座敷に腰をおろす。

腕や足は真っ赤だ。

さて、ここからは腰を据えて飲む。

海水浴素人は飲んで泳いで、泳いで飲んで。

だから溺れて死ぬ。

玄人は集中的に泳ぐ。

で、陸に上ったら飲む。

飲んだらもう海へは入らない。

これは鉄則だ。

ビールと地タコの刺身を頼む。

グビ、グビ、グビ。

プハ~!

2時間の全身運動の後に飲むビールは最高至極だ!

地タコはこりこりと歯ごたえがあってこれまた美味。

ほろ酔い気分。

口当たりを変えて冷酒をいただく。氷を浮かべてオンザロック。

焼サザエを追加でいただく。

これがまたほのかに苦く、磯の香りがして美味。

窓からは心地よい浜風が流れる。至福の時間だ。

〆はご当地竹岡ラーメン。

チャーシューで出汁をとった真っ黒な醤油味のラーメンだ。

参考
【竹岡ラーメン】
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AB%B9%E5%B2%A1%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%A1%E3%83%B3

少ししょっぱいがチャーシューが美味い!

ラーメンを食べ終わる頃には浜の人影もまばらになり西陽が差してくる。

そろそろおいとまするか。ご機嫌な気分となり、足取りもちょっとおぼつかない。

竹岡駅に戻り無人の改札をくぐって、千葉駅に向かう内房線に乗車する。ベンチシートにあたる背中はひりひりと痛かったがすぐに高いびきで眠ってしまった。

こうして、大人の海水浴の一日は、日焼けとほろ酔いだけを残し、暮れていくのであった。

ビバ、夏!

※あれから20年近くが経つ。津浜海水浴場は静かにその歴史の幕を閉じた。しかし、あの日の潮風と、泳ぎ疲れた身体に流し込んだ一杯のビール、そして真っ黒な竹岡ラーメンの旨さだけは、今も忘れることができない。

どーよっ!

どーなのよっ?