※画像は10代目金原亭馬生師匠
 
※この随筆は2006年12月14日に執筆したものに加筆修正しました。
 
金原亭馬生。
 
当代は失礼ながら知らない。
 
先代(10代目)の話。
 
参考
【十代目金原亭馬生】
 
 
ちなみに当代はこちら
 
名人古今亭志ん生師匠の長男。志ん朝の兄。二人の名人上手に挟まれて地味な存在。私自身もあまり噺を聞いたことがなかった。
 
(ちなみに娘が女優の池波志乃さんである)
 
若くして金原亭馬生の大名跡を継いで、親の七光りと揶揄されることもあったそうだ。
 
ちなみに名跡の由来は野馬の生産地として有名な金原(こがねはら:小金原とも書き下総中野牧の一部)で馬が生まれるという意味の地口だそうだ。(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)知らなかった。
 
組合の機関紙で「出番です」という組合員紹介コーナーがある。この間ボランティアで組合活動を手伝ってくれ、組合員になったY氏のインタビューをした。取材の最後に趣味を聞くのが恒例となっている。彼は「う~ん」としばらく考えた挙句、「趣味はこれといってないのですが、寝しなに落語を聴くのが好きです」と語った。
 
ピクン!
 
私のアンテナが立った。
 
「私も落語が好きで、まさに寝しなにテープを聞くんです。一番好きなのはやっぱり、志ん朝師匠ですかね。」と言うと、彼は「私はお兄さんの馬生が好きだね、あと柳橋も」
 
参考
【春風亭柳橋 (7代目)】
 
 
早速図書館でDVDを借りる。図書館の落語DVDは人気が高く、借りるのも至難だが、私が行ったときは幸いなことに偶然にも馬生と柳橋の収録された「NHK古典落語名作選」が借りられた。
 
『笠碁』
 
柳家小さん(もちろん先代【永谷園の】、5代目)が十八番(おはこ)とした噺。
 
参考
【柳家小さん (5代目)】
 
【笠碁】
 
小さん師匠の話は味があるが、私にとっては何か物足りない。彼の『笠碁』聴いたことがあるが特に特徴があるわけでもなく普通の噺として聴いた。
 
参考
柳家小さん「笠碁」
 
馬生の『笠碁』。久々に聴く名人上手。恐れ入った。
 
参考
金原亭馬生「笠碁」
 
彼は父親の志ん生とも弟志ん朝とも全く芸風が違うように感じた。弟志ん朝は父志ん生の芸風ではなく桂文楽師匠に傾倒していったようだ。確かにその噺の几帳面さはどこか似ている。しかし、馬生はどうなのだろうか?
 
ちなみに、父志ん生は長男馬生の芸風を嫌っていたという話もあるが、興味深い。
 
ヘボ碁で「待ったなし」の縛りをかけ、年甲斐もなく仲たがいした店の隠居旦那。雨が降り続けばやることもなく、ヘボ碁でも相手が欲しくイライラしてくる。
 
煙草入れを忘れたと理由をつけて笠を着てとりに行く隠居とそれを店で待つ隠居。お互いの心理描写を目の動き、身のこなしで表現する。
 
馬生の噺では、特に店で待つ隠居の身のこなしが秀逸。片方(店で待つ隠居)の人物描写を通して、相方(店に行こうとする隠居)の動きや心理までも観客の脳裏に浮き立たせる。
 
ここまで秀逸な芸は見たことがない。一人話芸の極致である。
 
このビデオが収録されたのが彼が胃がんで他界する1年前だそうだ。彼は1982年に54才の若さで急逝する。私が彼の噺をあまり聴いていないのも頷ける。これからはもっと馬生を聴いてみよう。
 
・・・・・・・・・
 
先日、現場で大工と大喧嘩。仕事の行き違いで、「表に出ろ!」「あ~、上等だ!」「うちの職人全員つれて来い!」青くなった監督が仲裁に入って事なきを得た。
 
自分自身まだまだ血気盛んである。江戸っ子気質の職人のせいか短気で困る。すぐ頭に血が上る。
 
その後、監督を間に入れてお互い頭を冷やして話し合った。些細な行き違いだった。お互い現場でいいものを作ろうという気持ちに変わりはなかった。握手して仲直りした。
 
大人の喧嘩は仲直りのタイミングが難しい。そんな事を思い浮かべながら聴いた。
 
ケンカのこと、仲直りのこと、趣味のこと、親友のことなど考えさせてくれるいい噺だ。
 
この噺をはじめ、生きる上での全ての事を落語は私に教えてくれた。そう思える噺である。
 
どーよっ!
 
どーなのよっ?