※画像は佐渡金山(道遊の割戸)
 
「佐渡の金山この世の地獄、登る梯子はみな剣」
 
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話は飛ぶが、皆さんは都井睦雄をご存知だろう。
 
1938年(昭和13年)に岡山県で起きた凶悪殺人事件、いわゆる津山三十人殺し事件の犯人である。
 
参考
【津山事件】
 
この凶悪事件の後、自殺した犯人の都井睦雄が通っていた尋常高等小学校長が捜査当局に回答した「被疑者学業成績性行等回答書」によれば、都井の学業成績は尋常科及び高等科の計8年間を通じ、体育科目も含めて全科目において10段階中全て8以上であり、「性質素行」欄には「勤勉親切ヨク命(めい)ヲ守リヰタリ」、「正直ニシテ約束ヲ守リ礼儀ヲ重ンジ緻密ナリ」等と記載されていたそうである。
 
この凶悪事件の犯人、子供の時は成績優秀。素行は極めて良好であったのだ。
 
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大変乱暴な言い方をすれば、日本政府、さらには安倍晋三や高市早苗が強行する佐渡金山の世界文化遺産推薦の理屈とは、「都井睦雄という凶悪殺人犯は子供の頃は優秀だった。なので子供の頃に限って言えば表彰に値する素晴らしい人間なのだ」と言っているに等しい極めて非論理的な主張なのである。
 
その理屈も含めて、これからそれを論じていきたい。
 
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世界遺産とは「人類の知的・精神的連帯に寄与し、平和と人権を尊重する普遍的な精神をつくる」というユネスコの理念に基づくもので、登録推薦物について調査・勧告を行う国際記念物遺跡会議(ICOMOS)は「より広い社会的、文化的、歴史的、自然的な文脈と背景に関連させなければならない」(「文化遺産の解説及び展示に関するICOMOS憲章」)との原則を示している。
 
参考(ハンギョレ新聞)
日本政府は、戦時の朝鮮人強制労働の事実を認めるべきである
――佐渡金山の世界遺産推薦について
 
では、佐渡金山はどうか?
 
そもそも佐渡島は流刑地であり、江戸時代後期には江戸から約1,800人の無宿人(浮浪者)・罪人が佐渡金山に強制連行され過酷な労働を強いられた。
 
当初は鉱山の繁栄によって日本各地から山師、金穿り、大工、測量技術者、商人、漁業者など多くの人々が高い賃金目当てに集まってきたが、海抜下に金山の坑道を伸ばしたため、大量の湧き水で開発がままならなくなってくると、内地から無宿人や罪人が連れてこられ、主に水替人足の補充に充てられたのだ。
 
そこで、冒頭の「佐渡の金山この世の地獄、登る梯子はみな剣」と謳われた。
 
江戸の無宿者はこの佐渡御用を何より恐れたといわれる。水替人足の収容する小屋は銀山間の山奥の谷間にあり、外界との交通は遮断され、逃走を防いでいた。小屋場では差配人や小屋頭などが監督を行い、その残忍さは牢獄以上で、期限はなく死ぬまで重労働が課せられたそうである。
 
参考
佐渡とは
 
【佐渡金山】
 
なので、江戸時代の佐渡金山からは「平和と人権を尊重する普遍的な精神」はうかがうことが出来ない。
 
この一点をもっても佐渡金山が「世界文化遺産」の精神に適合するか否かわかるであろう。
 
さらに言えば、この佐渡金山は韓国側が指摘するように朝鮮半島の日本による植民地時代に朝鮮人たちが「強制動員」された歴史があるのだ。
 
特に三菱鉱業が運営した鉱山には朝鮮人たちが大勢動員されたことが確認されており、戦争期間中に佐渡金山には最大で約1200人の朝鮮人が強制動員されたそうである。
 
参考(ハンギョレ新聞)
日本、朝鮮人を強制動員した「佐渡金山」を世界遺産候補に推薦か
 
憲さんから言わせれば佐渡金山は江戸期においてもその労務管理上決して誉められたものではない上に、その後の鉱山経営としても、こと戦時中には人種差別と人権侵害による搾取を基本としていた史跡なのである。
 
すなわち、これは2015年に韓日関係を悪化させた「明治日本の産業革命遺産」が世界遺産に登録される際、その施設の一部で1940年代に韓国人やそのほかの国の国民らが『自らの意思に反して』動員され、過酷な条件の『強制労働』をさせられたいわゆる「軍艦島問題」の再燃に他ならないのである。
 
しかし、それを懸念した日本政府は姑息にも今回の佐渡金山の世界遺産登録に向け、対象期間を戦国時代末から江戸時代に限り、日本による植民地時代を除外しているのだ。
 
参考(ハンギョレ新聞)
軍艦島のように歴史歪曲…日本「佐渡金山」を世界文化遺産候補に選定
 
これをもって憲さんが「凶悪殺人犯人の都井睦雄をして、子供の頃の素行を切り取り表彰する行為」と同じであると批判しているのだ。
 
そもそも、日本政府の世界遺産登録の下心は明らかだ。
 
世界遺産に登録させ、世界的知名度を上げて観光地化を加速させ外国人観光客を呼び込みインバウンド効果を期待するといった金銭ずくの極めてゲスばった考えであろう。
 
憲さんは佐渡金山の史的価値を決して否定するものではない。
 
日本の文化審議会が言うように江戸期において、世界の鉱山で機械化が進む中、佐渡金山が手工業による独自の生産システムを発展させ、17世紀には世界最大の金の生産地となっていた点などは歴史的にみでも注目すべき点はあるだろう。
 
何よりも徳川幕府がこの金山を経営したことに興味津々である。
 
しかし、それをさらに後の負の歴史と断絶させて評価することは不可能なのである。
 
それは「凶悪殺人犯の都井睦雄はいい人間であった」と言っているに等しいのだ。
 
史跡自体には何の罪はない。しかし、その史跡においては肯定的評価も否定的評価も含めて全てを概括し、それを見るものに提示し考えさせることが一番重要なのではないだろうか?
 
それは軍艦島においても同じである。
 
さらに言えば、今回のこの問題でしゃしゃり出てきて事態を引っ掻き回している極右政治家の安倍晋三や高市早苗などの動機はさらにえげつないものである。
 
奴らの本心は佐渡金山の世界文化遺産の登録などそんなことはどうでもいいのだ。
 
なぜなら、安倍晋三や高市早苗の本当の目的は、今回の問題を朝鮮人強制労働の事実を否定する「歴史修正」に利用しようというものにすぎないからだ。
 
事実、安倍晋三はこう主張している。
 
「(韓国側に)歴史戦を挑まれている以上、避けることはできない」
 
安倍や高市の気分はもう「戦闘状態」なのである。
 
「歴史戦」という言葉も右翼言論機関の産経新聞の極右編集委員が近年でっち上げた言葉である。
 
参考
【歴史戦】
 
このような発言は真剣に世界文化遺産の登録を求めている地元の人々をも欺く行為以外のなにものでもなく、そしてなんともケツの穴が小さい偏狭なナショナリズムと言わざるを得ない。
 
こいつ等が憲さんと同じ国で同じ空気を吸っていると思うと気分が悪くなる。
 
この辺りの批判はLiteraに詳しいので参照されたし。
 
参考(Litera)
安倍のせいで「佐渡金山」世界遺産は逆に絶望的に! 歴史修正主義宣伝と影響力誇示のためだけに“安倍フォン”かけまくり関係者に圧力
 
また、読売新聞の社説も安倍晋三の主張を丁寧にトレースしてあげている。
 
よく読むとその論理の破綻は明らかである。
 
参考
読売新聞社説
「佐渡金山」推薦 世界遺産登録へ発信を強めよ
 
では読売新聞に尋ねるが、「ユネスコは昨年、『世界の記憶』について、関係国が同意しなければ登録しない制度を日本の主導で導入したが、世界文化遺産にこうした明確なルールはない。同一視して、佐渡金山推薦の慎重論に結びつけるのは誤っている。」と言えるのか?
 
全くもってその理由が不明である。
理論立てて説明してもらいたい。
 
形式的に、文化遺産には記憶遺産と違い「明確なルールはない」という理由ではそれこそ子供の屁理屈にもならないであろう。
 
読売新聞は明確に答えるべきである。
 
このようのエキセントリックな日本の極右政治家やネトウヨ、さらには政府の提灯持ちマスコミに対しての当事者からの冷静かつ理知的な反論を見つけた。
 
それが、韓国紙ハンギョレ新聞に掲載されたカン・ドンジン | 慶星大学都市工学科教授・文化財庁文化財委員(世界遺産分科)の寄稿文である。(末尾に全文引用)
 
参考
[寄稿]日本の佐渡金山は世界遺産になりえない
 
曰く・・・
自国の利益に反することについてなら、どんな手を使ってでも隠したり言い張ったりするのが彼らの特技であることはよく知っているが、ユネスコの、いや全人類の前でした最低限の約束さえ守らずにいる国家が、恥も外聞もなく再び強制動員の現場を世界遺産に登録するとは、到底彼らの本音は理解できない。
 
曰く・・・
国家間の紛争の可能性がある遺産であれば、何よりもまず事実に対する客観的な認定と対立の解消が前提にならなければならない。これだけでなく、世界遺産は真正性と完全性という条件に一点の躊躇もあってはならない。遺産に関するすべてが本物であり、真実でなければならない。
 
曰く・・・
誕生、発展、衰退、消滅に至る鉱山の完全な歴史を説明することができず、幼い頃の姿だけを鉱山の歴史として見てほしいという日本の態度に、怒りとともに痛ましさすら感じる。
 
曰く・・・
このような日本の態度は、過去数十年間、明治と昭和の時代に帝国主義的侵略の野心から犯した蛮行を美化・歪曲し、自国民に教えてきた偽りの歴史が明らかになることに対する強迫的な現実逃避の症状から出るものと思われる。
 
等々・・・。
 
読んでいてその理論の正統性に恐れ入ると同時に安倍晋三と同じ民族である自分が恥ずかしくなり、消えてしまいたい気分にさえなる。
 
この、韓国の大学の先生の理屈と、安倍晋三や高市早苗、そして読売新聞の社説を読み比べてどちらが歴史の検証に耐えうるかは一目瞭然であろう。
 
安倍晋三や高市早苗の言説など稚児(ちご)の戯れ言(ざれごと)にすらなっていまい。
 
(´Д`)=*ハァ~
 
憲さんは世界遺産のなんたるかをよく知らないし、そんなのはどうでもいい。
 
韓国の先生の言葉を借りて書くが、目の前に広がる史跡の姿は、その誕生、発展、衰退、消滅に至る過程全てがその歴史であり、それは功罪共に評価しなくてはならないのである。
 
それを踏まえた上で、真にその歴史に触れたい者がそこに集うだけで充分であろう。
 
史跡とは物見遊山の場所ではないのである。
 
それが真に歴史から学ぶと言うことであろう。
 
佐渡金山は今も彼の地で私たちにそのように語りかけているのではないだろうか?
 
どーよっ!
 
どーなのよっ?
 
※憲さんは佐渡金山にも行ってみたいが、それとは別になぜ横須賀造船所が「明治日本の産業革命遺産 製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業」に入っていないか疑問に感じている。
もし、「明治日本の産業革命遺産」として挙げるのであれば横須賀造船所が真っ先にリストにあがるべきであろう。
 
参考
横須賀製鉄所――造船王国・日本の源流
 
それは、おそらくここが観光地ではないことと、さらには安倍晋三などの歪曲した「官軍史観」が原因ではないかと憲さんは思っている。
 
いつか、横須賀造船所についても真剣に語ろうと思う。
 
※それにしても居ながらにして韓国の新聞の記事を日本語で読めるのは素晴らしい時代になったものである・・・。
この時代がずっと続くことを祈るばかりだ。

※2月4日に東京新聞がこの問題で社説を掲載しました。
 
<社説>佐渡金山の推薦 負の歴史継承してこそ
 
また、韓国紙ハンギョレ新聞も3日に社説を出しました。
 
日本の佐渡金山の世界遺産登録推進、国際社会の連帯で阻止すべき
 
※参考(せっかくなので・・・)
[寄稿]日本の佐渡金山は世界遺産になりえない(全文)
 
カン・ドンジン | 慶星大学都市工学科教授・文化財庁文化財委員(世界遺産分科)
 
 福岡の筑豊炭鉱は過な強制動員の現場だった。2011年に「世界の記憶(世界記憶遺産)」に登録された「山本作兵衛コレクション」はここから生まれた。一生をここで鉱夫として過ごした作兵衛が描いた697点の生活記録画は、日本が経済大国へと飛躍した時期の鉱夫たちの生活と労働環境を示す「手で書いて描いた人権宣言」と呼ばれる。世界の人々はこのコレクションを通じて、西洋の産業技術が東洋に及ぼした弊害を理解する。しかし、脱出を試みて捕まり、逆さにぶら下げられて拷問を受ける絵の中の鉱夫が誰なのかは覚えていない。なぜか。記憶の中の本質は隠したまま、表向きの価値だけに集中するようにした日本の高度化した論理のためだ。
 
 日本が今度は「佐渡島の金山」という鉱山(佐渡金山)をユネスコ世界遺産に登録しようとしている。佐渡金山は強制動員の現場だった。どんな巧妙な反転の策を準備しているのか正確には分からない。一つ確かなことは、今回こそは世界遺産の登録を防がなければならないという事実だ。いや、この機会を、19世紀半ば以降100年余り続いた日本のあらゆる侵奪と蛮行、そしてまやかしと歪曲をより具体的に示す契機としなければならない。
 
 2015年、日本の「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録当時、遺産の「歴史全体」を知らしめるべきだとする国際記念物遺跡協議会の指摘は、限られた時期(1850~1910年)のみを選んで強制動員の歴史を避けようとした日本のごまかしを無力化する解決策となった。結局、ユネスコ日本大使が「強制的な労役」があったという事実を認めてもいる。ところが、日本は7年たっても歴史全体を伝えることになっている登録条件かつ約束を履行していないのはもちろん、むしろ強制ではなく自発的な参加だったとして歪曲している。全体の歴史の展示場として造られた産業遺産情報センターは、遺産の現場から千キロ以上も離れた東京の総務省別館に設置された。自国の利益に反することについてなら、どんな手を使ってでも隠したり言い張ったりするのが彼らの特技であることはよく知っているが、ユネスコの、いや全人類の前でした最低限の約束さえ守らずにいる国家が、恥も外聞もなく再び強制動員の現場を世界遺産に登録するとは、到底彼らの本音は理解できない。
 
 世界遺産は人類の和合を最高の価値として明らかにするユネスコ精神のもとに認められるものであるため、国家間の紛争の可能性がある遺産であれば、何よりもまず事実に対する客観的な認定と対立の解消が前提にならなければならない。これだけでなく、世界遺産は真正性と完全性という条件に一点の躊躇もあってはならない。遺産に関するすべてが本物であり、真実でなければならない。
 
 ところが佐渡金山は、明治日本の産業革命遺産が歩んだ道を同じく歩もうとしている。時期を「戦国時代末~江戸時代」に限定して強制動員の時期を外し、強制動員に関連する遺産も除外しようとしている。目の前に広がる鉱山の姿は、19世紀末以降、東アジア全体を戦争に巻き込んでいった侵略時代の結果物なのに、どうやって地中に埋もれている以前の時代のものだけで世界遺産を狙えるというのか。誕生、発展、衰退、消滅に至る鉱山の完全な歴史を説明することができず、幼い頃の姿だけを鉱山の歴史として見てほしいという日本の態度に、怒りとともに痛ましさすら感じる。
 
 このような日本の態度は、過去数十年間、明治と昭和の時代に帝国主義的侵略の野心から犯した蛮行を美化・歪曲し、自国民に教えてきた偽りの歴史が明らかになることに対する強迫的な現実逃避の症状から出るものと思われる。侵略と略奪が植民地史観として正当化され、むしろ日本が被害者と認識されることを、全世界は警戒しなければならない。これは決して佐渡金山に限ったことではない。
 
以上