皆さまこんにちは

先日ひとつのガラをアブルッツォ州で終え、先週は現代オペラを一晩終わり、

今夜はロッシーニ小荘厳ミサ曲のソリスト稽古があります。


↓リミニ、サン・ミケーレ教会


ガラはNOTA VERDIANAと題されたアブルッツォ州でのコンサートで、ヴェルディのアリアと重唱でした。

いっぽう現代オペラは、わたしが去年、セニガーリアのフェニーチェ劇場での初演にかかわったが、今回も苦戦しました。

わたしは声楽人生を通して現代作品を歌い、10月にも音楽院の現代作品の初演の仕事が一つ入りましたが、

現代作品を歌うことは常に喜びでもあり、苦労でもあります。

 

さてロッシーニ小荘厳ミサ曲をリミニ近郊の大聖堂で明後日に歌いますが、

このカテドラルはわたしの婚約者の生まれた街でありわたしがいちばん好きな街のひとつでもあるリミニ市にあります。

何度も歌った作品ではあるけれど、毎回新しい気持ちで向かい、常に新しい面を発見できる作品です。

 

さらに、このロッシーニから中一日あけてもうひとつ楽しみな公演があり、それは

GRAN GALA DI MUSICA SACRAと題された宗教曲のガラ・コンサートで、こちらは市立劇場の主催です。

わたしはドニゼッティのミサ曲と、トスティのTantum Ergo、先日終えた現代オペラのアリアと、

このなかでドニゼッティのレクイエムは個人的に採り上げた楽曲ですが、

2015年、ベルガモのサンタマッジョーレ教会で歌った思い出の楽曲です。

10月は劇場のこけら落としのコンサートとオペラの先駆け、劇場監督への声みせとして重要なイベントになるのでしょう。

 

 

 

さて、夏から書き続けた、ふたつの歯車の記事を今回で締めくくりましょう。

 

1つ目の歯車は喉頭でしたが、今回お話しするのは2つ目のおなかの歯車、

つまり、息をおなかでまわすこと、おなかでの空気のジラーレ、のことですが、

わたしは現在、指導者としては、2つの車輪の説明の順番からすると、先に教えています。

 

これは同時に、支えのうち、APPOGGIAREとSOSTENEREの支えのうち、SOSTENEREから先に教えているということ。

 

もしあなたがおなかを下にいきんだまま歌っていて、ジラーレのすべてを頭部で行っているならば、

それはまだオペラの歌唱としては完成形ではありません。

 

むろん、おなかをりきみからほどくやいなや、喉にちからが入って歌えなくなる、かもしれず、

実際のところ、このトピックは初級者・中級者向けではないと思います。

 

しかし、プロ生活の中で密閉を徐々に学ぶなか、

SPINGERE GIUの歌い方から、SOSTENERE、の歌い方に切り替えてください。

腹筋で強さを生み出すのではなく、横隔膜で圧力を生み出すのです。

 

わたしは先の記事でお話ししたように喉頭の回転運動によって、初期のオペラ活動のすべてを乗り切りましたが、

20代最後の期間、フランスで『ルチア』、イタリア市立劇場で『愛の妙の役』『チェネレントラ』、ドイツでの『愛の妙薬』のツアーを控え、根本的にソリストとしての歌唱能力の改革を求められていたとき、

幸運にもMarugherita Guglielmiと半年勉強する機会を得て、

これらのプロジェクトを何とか乗り切りました。

 

そこで、ボーリングのように、あるいは、ブランコに乗るように、と教えられ、

それは新しい感覚であり、Voce di Mascheraを喉頭(だけ)でなくおなかで作り出せることを発見したのでした。

2012年、マルセイユ市庁舎ホールでのルチアを稽古しながら、いろいろ実験し、アリアを何とか乗り切れたのでした。

 

 

 

◆おなかのジラーレ◆

俗にお腹でまわすといいますが、実際にはどういうことが起きているのでしょうか。

 

わたしがGuglielmi女史に学んでいるとき、それはイメージ論であると思ったのだが、

実際にのちのち詳細に観察するならば、その回転運動は鼠蹊部から始まり、

後方筋を巻き込み、斜腹筋を使って前方へジラーレを生み出し、

それはわたしの他なる師匠であるGiancarlo Del Monacoのいう、みぞおちへのAppoggio、に終わります。

そして、わたしは指導者として、このみぞおちのAppoggio=息のAppoggioが、次なる鼠蹊部へと開始を促します。

 

こうしてひとつの歯車がおなかに生まれます。

この歯車は、前記事で述べた喉頭の歯車と組み合わせることで、さらにAppoggioを完全にできますが、

いずれにせよ、

この2つの歯車をもつとは、

ジラーレのシステムを声門下にもつということです。

 

フランコ・コレッリの、頭を切り落としても歌えるように、という、われわれメロッキ派のあいだで有名なことばがありますが、つまり、声門の下でジラーレを完結させることです。

 

しかしそれはVoce di macheraと矛盾するどころか、むしろその条件だとわたしは思うほどです。

それはレッスンできちんとデモンストレーションし、説明しましょう。

おなかと喉頭でのジラーレがあるからこそ、高いポジションでマスケラで(またさらに、マスケラから)しかも響きの核を捉えた状態でそれが可能になるとわたしは思います。

 

おなかのジラーレに戻ると、

それは、息の流れの中で歌うというよりは、息の上で歌う感覚です。

それは、声を出す以前に、声を載せるべきベルトコンベアーをもつことです。これが横隔膜の下で主に制御するSostegnoであり、Appoggiareとは、いわばベルトコンベアーの上に品物=声を『置く(Appoggio)』作業のことです。

 

このベルトコンベアー=おなかの歯車の起動は鼠蹊部で始まります。

Elena Obrasthovaはパチンコと述べ、鼠蹊部から息ははじき出されると教えました。

またGuglielmiは更に、ここ(鼠蹊部)にバルブがあると述べ、

それはつまり起動のスイッチのみならず、バルブで圧力をコントロールすることを指摘しました。

 

注意してほしいのは、この鼠蹊部=骨盤筋を使うとは、必ずしも下腹を引っ込めることだけを意味しないことです。

それはおなかを引っ込める腹筋運動ではなく、あくまで横隔膜で作り出した空気のボールを押さねばならない。

 

鼠蹊部をうまく使い始めること成功するならば、

筋肉運動のカーブが骨盤に沿って背中側にバックします。

 

このバックするときの筋肉は、綱引きのときにかんじる筋肉(Laura Brioli)ですが、

決して力づくではなくて、ヴァイオリンの弓を引き寄せるような音楽的なものであるべきです。

 

そして斜腹筋で回転させ(=おなかでまわす)ときに少しだけリズミックな運動神経が必要です。

この運動がうまくいくと音はマスケラに載るだけでなく、前方に集まって健全な響きを生みます。

 

 

 

さて鼠蹊部から始まってわき腹でカーブしたCの文字の上半分は声帯下でカーブを描いて吐き気のような感覚を生み、そのとき声のすべてが劇場に抜けているのを感じるでしょう。これがSOSTENERE=サポートされている声であり、あなたはこのとき大声量を得るだけでなく快適さも得ていると思います。

だが、これで終わりではありません。

 

◆2つの歯車の接続◆

Cの文字を鼠蹊部から上に向かって書くとき、それはみぞおちへ向かい、

前に胸に前方への心地よいPushを感じ、それはいわゆるColpo di pettoです。

関与するのが、喉頭であり、その回転運動です。

つまりCのおなかの文字を書きあえるとき、別の歯車、喉頭の回転運動にシフトします。

それはちょうど大きな歯車の上に小さな歯車を持つかんじ。

喉頭のたすけによって声はマスケラに載り、前方にでるのみならず前に響きを集めます。

 

が、喉頭をもし、わたしの師であり演出家でもあるGiancarlo del Monacoの教えの中心にある、みぞおちの点、に向かわせるならば、

それはもっとリラックスしてもっと金属的な響きになります。

ちょうどそれは、おなかのベルトコンベアーの動く床に対し、声という品物を上から乗せるような感じ。

つまりAppoggiare(置く)であり、またそれは声楽技術としてのポルタメント(音楽表現ではなく)であり、

La voce abbadonataであり、ようするに、リラックスしたもたれかかり(Appoggiare)です。

 

強調したいのは、垂直に上から下へ押すSpingere giuではなくて、おなかと喉頭のおりなす回転運動をともなう、La voce abbadonata捨てられた声であることです。

 

また、最終的に、みぞおちは空気で膨れるが、みぞおちにピアノを押し当てて前方へ転がすようなちからづくなものではまったくなく、空気のプレッシャーによるもので、腹筋ではない。

 

わたしは個人的にアクートは、このCの上部右の最後のカーブにかかっていると思いますが、

それはおなかと喉頭のコンビネーションが必要です。

 

わたしは初期の指導でボーリングの球のように声を前に転がすと述べたが、

これは完全には正確ではなく,

実際のところ、レーンは前に動いていてあなたがするべきなのは声を置く(Appoggiare)だけです。

 

さて、今回ははじめて、じぶんの声楽的なコツを述べたつもりでしたが、

意外に、じぶんのオリジナルとも全然いえないとも思いました。

習ってきたことを自分なりに『組み合わせた』だけに過ぎないのかもしれません。

 

では皆さま、今回もマニアックな記事をお読みくださり感謝いたします。

 

次回のシリーズもどうぞお楽しみに。