読者の皆様

イタリアにも秋が近づいて参りました。わたしはいま、ミラノのスカラ座別館、アルチンボルディ劇場で書いております。

昨日まではエミーリア州の街モデナに2泊してマエストロと特訓してもらっておりました。折しもマエストロは若い歌手たちのための。わたしもウィーンから来た。わたし自身とても学んだが、いま旬の若い歌手達を聴けたこともとても良かったです。

 

いまは勝手知ったるミラノでの稽古、昨晩はミラノについてすぐヴェルメ劇場のオケリハ室で稽古があったのですが、この劇場はレオンカヴァルロの道化師の初演が行われた劇場。先日まで道化師のシルヴィオ役を歌ってましたから、感興もひとしおというところでした。

いずれにせよミラノのふたつの劇場からパワーをもらい充電できた思いです。

 

さてシリーズ第二回目です。

 

バロックと宗教曲の分野はそれぞれが、特に現代においては、専門分野です。

つまりこのレパートリーは表現も発声も独自のものを持つと考えていい。

わたしはこれまでバロックのレパートリーを仕事したことはなく、宗教曲はここ3年くらい12月だけに絞って歌っています。期間をオペラと分けているのはオペラと宗教曲は音楽美学も発声技術も違い、わたしのなかでは根本的に違うジャンルです。

 

ここまでハッキリ認識しているわたしがなぜ生徒と宗教曲のレパートリーを学ぶのでしょうか。

ひとつには第一に、この記事の趣旨でもありますが、入学ないしは学内のオーディションには必須ということ。

 

別な理由としてはこのレパートリーは若い歌手にとっては特にオーケストラとともにソリストとして歌う経験を積ませてくれるレパートリーです。

 

つまりわたしがたんなる発声教師としてはどうしてもやらねばならない理由はない。だがオペラ指導者としては"間接的に"

ではあるが彼女/彼をオペラ歌手のキャリアに近づけてくれるレパートリーです。

 

しかしながら音大や音楽院に在籍していた生徒の場合、十分すぎるほど担当の先生にレパートリーを構築・鍛錬されていることもあり、この場合はわたしが頑張って勝ち曲を探す必要がやや低いです。

 

いずれにしても、この記事は、確実に言えるのは、このジャンルを専門的におさめようという方のためには書かれない、ということです。

 

主に音楽院や大学院の入学試験、あるいは学内試験のために、だいぶぶんの若手歌手はバロックあるいは宗教曲のレパートリーを深く学ぶことになります。

あるいは、エージェントは若い歌手にまず宗教曲のソリストから始めさせることも少なくなく、事実わたしの生徒の何人かは、このジャンルで管弦楽と歌う経験を積み始めました。

また、バロックは特にイタリアで若くして大舞台に立つには有利なジャンルかもしれず、これもまたわたしの生徒が見を持って証明している。

 

この記事では、バロックと宗教曲、とひとくくりにするのは理由があり、それは相関関係が深いだけでなく、たとえば東京藝大の大学院試験のように、『宗教曲ないしはバロックのアリア』からという出題があります。つまり求められているものが共通している、、、ということを記憶しておいても良いでしょう。

 

さて、ここで東京藝大大学院の話が出ましたが、これはオーストリアやイタリア国立音楽院ではも同様に、オペラと一緒に準備せねばなりません。

つまり、選んだバロック・宗教曲のアリアの「書法」から、同じく選んだオペラアリアの書法があまりにも遠いと、試験準備期間、発声の調整に苦労する点だけ、注意せねばなりません。

このあたりはどうぞ、わたしをご信頼下さり、試験レパートリーのためのディスカッションレッスン外の時間で固めましょう。

 

一般論を申すなら、音楽院や大学院の試験で、アリアをベルカントもの、オペレッタなどで固めている場合は、比較的、(発声的)矛盾のないプログラムを組めるでしょう。しかし、難しいのは重い声のばあいで、これは曲目選びが大変です。すこし工夫ある曲目構築が必要です。

 

さてここからは別個にお話いたしましょう。

 

バロックオペラからお話しすると、そのアリアの探し方としては、

ゆったりした曲よりも、速くて派手な曲のほうがバロックの形式を出しやすいし、先生としても悩みがすくない、と、

ざっくり申すことができそうです。 

というのも早くて派手な曲は、バロックの発声に寄せずに、たとえばドニゼッティ前期くらいの発声をそのまま持ってきても、スタイルや雰囲気は壊れにくいからです。しかしゆったりした曲を様式感を持って歌うのはより難しいです。

あと少し速めな曲から探したほうがいいのには他の理由もあり、

たとえばオペラアリアと組み合わせるプログラムのばあい、オペラアリアは比較的ですがゆったりしたテンポの曲が多いので、プログラムが遅い曲ばかりになるのを防げる可能性があります。

これはむろん、生徒がオペラアリア枠で速くてユーモアあるアリアを選んでいれば他の余地がありますが。

 

試験プログラム全体で考えるならば、

歌曲で速い曲を探す手もありますが、

歌曲の速い曲はユーモアを求められたり言葉の入れ方が難しかったりします。

 

バロックオペラでは、比較的お勧めする作曲家はヴィヴァルディ、ヘンデルの二人です。それから変わったところですがラモーやパーセルを加えて、フランス語や英語の曲を足すこともできます。もし本格的な勝ちアリアを見つけたばあいはオペラ一本ごとみる勉強もします。これは有効です。ただしマイナーなオペラだと楽譜も手に入りにくく難しいですが。

 

ただしバロックオペラのばあい、そんなにヴァリエーションがあるわけではありません。

個人によって大きくプログラムが変わるのはやはり宗教曲のプログラムです。

 

宗教曲の場合は、まずは言語の面から、ラテン語のもの、ドイツ語のもの、この2言語のものはしっかりそれぞれ勝ち曲をつくることです。

割とおすすめなのはバッハかもしれません。というのも、わりとエモーショナルに歌うこともでき、かつ、コロラトゥーラの名人芸をみせることもできるでしょう。きびきびしたテンポが多いのもプログラムに入れやすい理由の一つです。

ただし留学先がドイツ語圏のばあいは、バッハの準備は多少、神経を尖らせる必要はあるだろうと思っていますが。

意外な使い方としてはヴェルディのレクイエムを入れる方法で、特にメゾソプラノのアリアLiber scriptusはわたしは生徒の音楽院で使わせて入学させてきました。

比較的使いにくいというか生徒の声をとても選ぶ作曲家はモーツァルトやフォーレです。

 

宗教曲のまたほかの裏技は、近現代のレパートリーをみせられることです。

戦争レクイエムは1950年代以降の作品を含まねばならないプログラムを構築する際に、使う事が出きます。これは重い声の人には特に有効です。

近現代のレパートリーに関しては別記事にて改めて述べさせてください。

 

では次回の記事をお楽しみに。