読者の皆様。よき年末を過ごされていることと思います。
わたくしはイタリア国営放送RAI3および地方局TELE2000で放映されたシャルパンティエのテ・デウムのバリトンソロを全公演終え、、、
↓ドゥカーレ宮殿。
、、、そのあとは年末は残すところ1回オペラガラと椿姫の稽古があるだけです。年始は
この椿姫の公演が3・5日にあります。わたしは何度めかのファブリアーノ市立劇場に於いて↓
2月に再演でファエンツァ市立歌劇場でも歌います。↓小さいけれども深みのある色合いに味のある劇場。

今回はシリーズ最終回です!
第一回、第二回ではパッサッジョではおなかと喉頭を駆使して、パッサッジョで喉が狭まるのを空気をいかに扱い克服するか、を書いてきました。もし成功したならば、音はフワッと外に拡がる温かい響きになる。これは少し似た音としてはベルカントがあることも書きました。
ベルカントでは喉頭やおなかを使う以前に音は高いところ、あるいは前部から外へ出る、あるいは、音はすでにある。いわばオペラ歌手は、パッサッジョでこのベルカント派の目指す、前に出た響き、を、喉を開けることによって達成する。
ベルカントとの違いは喉にスペースをもち結果として外にも響きの拡大を持つのか、それとも単に外に大きな響きの拡大を持つのか、という違い。

さて、ではこれでパッサッジョの、またその支え方の学びは終わりなのでしょうか?

実は最後に重用な学びがあります。
それが密閉です。

ジーリは、喉を開けるのは危険だといい、しかし彼自身は呼吸法を熟知しているためにそれをできる、と述べたが、
密閉というテクニックはこの呼吸法に関わり、いわば横隔膜を目一杯使い、喉を全開にして歌うことを安全にできます。

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誰もが密閉について学びます。
その目的は?空気を中にたもち共鳴スペースを確保すること。またそれ以外にも喉を保護する重要な目的もあります。

順を追ってみてみましょう。
いちばんポピュラーな、誰もが初学時に学ぶのはおなかを下げるという密閉方法。腹筋を下方に圧をかけるように使い、いわば、いきむように、横隔膜を下げ、それをキープする。歌っているときは、横隔膜があがらないよう、このいきみをキープし、かつ、音の跳躍や大きな音を出すときなどはより下に下げると、音はジラーレし前に飛んでゆく。
これはいちばん簡単な呼吸法でしかも優秀な方法。なぜなら響きを最大限に外に出しつつも空気を中でキープしてくれるからです。
ただし、プロの道を歩むに従い、表現面と音域面で限界があることがわかってくるだろうと思います。
また、密閉方法としては、有効でかんたんだが、不完全で、喉が開くには空気圧が低いのです(他の方法に比べると)。
【喉で頑張るな、おなかで頑張れ】とよくいわれるが、おなかで頑張っても、結局喉は開かないので、喉から力が抜けることもないとも言えます。パッサッジョは、おなかを下げる方法では、根本的な克服は難しい。諸々の理由から、オペラを歌うならば、あるキャリア段階からは腹筋は使わないのがベターです。

では次。
次は喉頭を使う方法です。
喉頭を正しく使うならば、じつはある程度空気をコントロールする助けにもなります。なぜなら喉頭がホースの先のノズルをすこし締める効果を持つ為に、もし純粋な母音を使い、正しく喉頭を使うなかで横隔膜から空気を送り込むならば、確実に、空気は健全に保たれるなかで空気圧が高まり、喉が空きやすくなります。
しばしば、喉頭を下げる=喉を開ける、といわれるのはこのため。
ただし、メロッキ派のわたしが言うから説得力はある程度あると思うが、喉頭に、密閉のすべてを頼ることは、やはりできない。
喉頭は偉大なツールだけど、密閉のツールとして使うと不必要な声門閉鎖にエネルギーを割くことになり、重用なギアチェンジの側面にエネルギーを割けなくなる。つまり、結局、パッサッジョで喉を狭めることになりかねない。
むろん喉頭を正しく使えばある程度密閉されるので、喉は空きやすくなることは真実だが、喉頭だけにすべてを頼り、喉頭がブロックされる(喉頭派の)ありがちな災害には陥りませんよう。

つまり密閉はお腹で頑張ったり喉に頑張らせたりして実行すべきでないということですね。

結論としてはマスケラで密閉することが、わたしとしてはまっとうな意見だと思うのです。

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マスケラは共鳴空間だと思われてます。マスケラというときどこを指すかにもよるが、少なくとも鼻の後ろには重要な共演空間がいくつかあります。
しかし、わたしにいわせれば、Voce di maschera とは、空気はそこで留まり、しかし、響きだけは最大限にそして気持ちよく抜けていく声、のこと。特にパッサッジョではそうです。そこに当てて響かすためにこそマスケラがある考えは、音声学者たちは確かにそう述べるが、ひとりのオペラ歌手としてわたしは信じてない。いかに多くの学生が増すケラに当てるように歌い、音声障害を起こしているのか?
どちらかというとマスケラからスルッと抜ける音、煙のように頭頂からフワッと出る高音のほうが、劇場を満たしてくれます。
ヴェルディやプッチーニのレガートな中のアクートが柔らかいながらも大音量で響くのはそのため。
ずばりマスケラとは、空気はキープし、響きは外に出す、という声楽の本質を、そのまま教えてくれる機関です。

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マスケラで密閉する方法について述べましょう。
が、拍子抜けするほど簡単です。
それは、鼻の奥、鼻の後ろを閉鎖すること。
ちょうど鼻を手でつままないで、鼻のみの力で閉じる感じです。すると空気が鼻から出ないだけでなく、その流れそのものが止まる。
この中で横隔膜を使うとシンプルに喉だけがあく。横隔膜をつかったぶんだけ喉が開くようになります。
ブログで書くとなんのことやらと思うがレッスンでは一瞬で述べられる。

問題は歌手個人が劇場であれこれ試して習得するしかない部分があります、これはあとでも述べるがまだ声楽教育界で理論化されてないため。

さて、ここからはパッサッジョの話になりますが(やっと本題ですね)、密閉は、パッサッジョでもっともとれやすいです。
なぜなら、ひとつは自然にプレイスメントが切り替わり、ミドルボイスの位置、つまら口の前、口の前に音の中心点が切り替わろうとするからです。
すると、のどが空く代わりに、音の位置が変わる。ポップスなどでは、それをチェンジと呼ぶ。
密閉は、その位置変化を防ぐ目的があるが、位置変化が起ころうとすることで、勝手に密閉が取れようとする、とも、いえます。
パッサッジョでは注意が必要です。

ここでバランスを保ち、密閉に成功するならば、位置変化の代わりにミドルボイスの声域で喉が空気で膨らみます。つまり喉があく。このとき喉頭はよりリラックスすることも確認してくださいね。

こうしてパッサッジョのたびに、位置変化に伴う筋肉のテンションの増加を避け、リラックスして高めの中音域を歌うならば、そこからつながれる高音もまたリラックスで歌えます。いや、じつは、よりリラックスできるとも言えます。
これこそオペラにおけるチェンジであり、ギアチェンジであり、喉の拡大という意味でのチェンジ。

他の歌手が首を真っ赤にして高音を歌う一方、あなたは低音などとおなじくリラックスして高音を歌うならば、どれほどキャリアを切り開くことが楽になるでしょうか。

密閉は声域変化に伴う位置変化によりとれるといったが、もうひとつ重大な潜在的危険があります、それはおなかから圧を加えると、その場合も密閉がとれやすくなることです。
マスケラの密閉は、おなかで下にいきむ密閉とことなり、筋肉ではなくてバランスで行う密閉ですから、おなかから息を送るとき、その送り方で密閉がとれたりする。
これは奥深いことで、なかなか難しい。
個々人が劇場で、フレーズにあった横隔膜の使い方を研究なさることです。

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密閉はいまのところオペラ歌手が劇場の中で話題にする内容のようです。
アルバニア国立劇場で共演させていただいたスピントソプラノのエヴァ・ゴレミが、鼻を閉じて歌うことがいかに重要か、それは喉をあける、と明言していた。彼女の喉から大砲のような切り裂くような音が常に出ていたが、その秘密の一つが密閉。

また理論面では、アルトフが、この【アプネア】に言及し、鼻をつまんで水に飛び込んだあとのように歌う、と述べた。
また音声学者のフッシ先生が開発した口と鼻を密閉するマスクは、いかに密閉して歌うかを、暗に伝える器具。
こうしてこのマスケラで密閉する知識は、少しずつだがオペラ界に入ってきている兆しがある。少なくともイタリアでは。

しかし残念ながらまだいわゆるテクニック理論としては新しすぎる概念で発声書ではむろん言及されず、音楽院でも教えられてない。

たぶん30年後には教えられているのでしょう。
それはちょうど1970年代では歌手はパッサッジョやアッポッジョ、その用語が教育現場に浸透したのは少なくとも2000年代からでした、それと同じですね!

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今回はシリーズで、パッサッジョでいかに音を支えるか、いかにのどをあけて、音をしぼませずに実現するかを述べてきました。

これは秘伝でも何でもないが、しかし、まだ教育現場では当たり前のようには教えられていな事実。ぜひとも劇場で歌い始める前に、あるいは劇場で歌うために、学んでいただきたいことです。

お読みになって下さりありがとうございました。では次回のシリーズをお楽しみに!