★★★★☆
長編ミステリーは、文字量も半端なく、
久しぶりに一週間もの時間を要し、漸く読了。
読み応えは...言うまでもなく。
「目撃」
タイトルそのものから想像出来る通り、
人の『目で見た』ことの、何と危ういことか、
その恐ろしさを思い知る、作品。
二人の目撃者。
二人とも、
「彼女で間違いない」
という。
だが、
私は知っている。
その日、その時間、私はそこには居なかったのだ。
夫が、
深夜の公園で、何者かに毒を飲まされ、殺された。
逃げ去る一人の女。
最も動機のある妻が疑われ、・・逮捕された。
一貫して容疑を否認する妻。
しかし、執拗な取り調べで、朦朧とする意識の中で、とうとう...
犯してもいない犯行を認める供述をしてしまい。
迎えた裁判。
無実を訴える妻。
しかし、判決は・・。
並行するように走るのは、それなりに名のある小説家の男の過去。
四十年前、
母親が父親を殺したとして、世間を騒がせ、
その後、裁判の掛けられる前に、獄中で自殺した母。
その母を死に追いやったとして、自責の念を抱える男。
まだ8歳の少年...
最初は、口を噤んでいたが、刑事の圧力から、
彼はこう証言した、
『母が父を刺すのを見た』
信じていた我が子の言葉に絶望して、自ら死を選んだ..とされた母。
期せずして、今回似通った事件に至った。
そして、迎えた控訴審。
奔走する女弁護士。
事件は意外な形で綻びが現れる。
次々と明らかにされる、事件当日の謎。
一体誰が夫を殺したのか!?
決定的とも言える事実が明かされる。
後半は、緊迫感のあるドラマが寄せる波のように畳み掛けてくる。
圧倒的な文字量に根負けしそうになる心も、奮い立たせてくれる。
そして、
四十年前の事件にも、意外な真実が潜んでいた!
目撃...記憶...
何も作者の突拍子もないストーリー展開ではない。
心理学的な裏付けを示しながら、説得力を持って語り掛けてくるから、
如何に人間の記憶が杜撰であるのかが、末恐ろしくさえある。
証拠主義、
と言われる司法だが、
それでも、自白偏重は相変わらずと言わざるを得ず。
また、
善意の第三者の目撃証言の、何と危ういことかを思い知らされる。
四百頁あまりの作品にも関わらず、
実感としては、一千頁の長編を読み終えたかのような充実感。
圧巻。