★★★★★



連作短編集『ジャッジメント』で、小説推理新人賞を受賞。


デビュー作の衝撃は未だ記憶に新しく、期待を込めて手にした作品。




ただ、


正直なところ、


終盤に至るまでは、「拍子抜け」と感じるほどに、期待感は無惨にも打ち砕かれた...。




しかし、


終盤に至るや、ガラリと一変。


一気に★5へと跳ね上げた。







音海星吾。


中学生の彼は、町中で三人の不良に絡まれ、暴行を受けていた。


抵抗する術もなく、お金を渡して許しを乞おうと財布に手を伸ばした時、


一人の大学生が助けに現れた。



彼は100%の正義感で、星吾を助けようとした。



しかし、三人の男たちは、彼の正義感を嘲笑うかのように、暴行を加え、



そして、遂にはナイフを取り出し・・刺した。




星吾は、そんな彼を置き去りにして逃げた。




「お前も同罪だからな」




不良どもの言われない言葉が、いつまでも心に残り。






それからの星吾は、


被害者でありながら、


『逃げた被害者』として、加害者と同じ程度に世間からバッシングを受ける。



それは、星吾だけに留まらず家族までも巻き添えとして。





そんな星吾は、大学生となった。



ひっそりと身を隠すように生きてきた星吾は、大学でも、息を殺すように過ごしていた。



そんな彼の前に現れる、心無い人間たち。一方で、彼に寄り添う人も現れ、物語は、星吾を中心として、鬱屈としたストーリーが延々と続いてゆく。



読み進めるほどに、読み手まで暗く冷たい穴の中に落ちているような感覚に陥り、


ページを捲るたびに苦痛が増してゆく。




落とし所は一体何なんだ!?




そんな疑問すら抱きつつ、物語は終盤を迎える。




!?




それまでの鬱屈とした世界が、一気に崩れてゆく。



長い長い伏線が、


雪解けしたかのように、一気に紐解かれてゆく。





あのシーンはそういうことだったのか


だから、Aはあんな行動を取ったのか


えっ、そもそもの原因はBだったのか


まさかの真相


表紙に描かれたキャンパスにも、まさかそんな意味が隠されていたなんて




幼子に分かりやすく説明するように、


丁寧に丁寧に、謎を明らかにしてゆくから、



終盤は、手を離すのも惜しいほどにページに触れる指にも力が入る。





そして、ラスト。



誰しもが騙される。



騙されるけれど、


心の内に温かい空気が流れ、瞼には熱いものが込み上げてくる。



序盤..中盤..の流れの中で、まさか・・溢れることになろうとは全く想像すらしていなかった。




この終盤に触れるために、



本作を手にした、と言っても過言ではない。






イノセンスとは、


純潔、天真爛漫、無罪、無実、そんな意味がある一方で、


大人に使う場合には注意が必要となる。


なぜなら・・・。





やはり、


小林由香...という作家は、


只者ではなかった