★★★★★



・・・。


読後の余韻。


しばらくは時が止まり、周りの景色が一切無色化したかのような。




感動



そんなありきたりの言葉がどこか軽々しく聴こえ..。






貧しさを理由に苛められる少女。公園のベンチでふと漏れ聴こえてくるピアノの音色にシアワセを感じていた。



決して手に入れられない物。



ある日、そんな少女に手渡された一枚のスケッチブック。


描かれていたのは、鍵盤。




『紙のピアノ』




嬉しそうに微笑む少女は、成長するとともに、才能を開花させてゆく。




そして、


推薦で入学した音楽大学で、


彼女の前に立ちはだかる、あまりにも大きな壁。



超絶技巧を駆使するその同学年の女性は、慇懃な振る舞いもさることながら、その圧倒的な才能は他を凌駕する。





迎えた音楽コンクール。



波乱!?


波乱!?



一体何が起こるのか。




時は移り、迎えた国内最大のコンクールは、プロアマ入り乱れ、まさに国内最高峰の戦い。




少女とともに二人三脚で歩んできたピアノ講師。



そんな彼の身に降りかかる、あまりに非情な現実。



そして、内気な少女は優勝を誓う。




舞台の幕が遂に上がる..。



不意に頬を伝う...に、不思議と驚きはない。





奏でられるピアノの音色。


聴こえるはずのない音なのに、文字の持つ力。



文字を追いながら、心の内に流れてくる音色。




作家の真骨頂とでも言うのか、


音楽を文字で表現し、その表現力が耳に音色として届く。



もちろん、現実に音が鳴っているわけではないけれど、


それが本の魅力であり、文字の魅力。



読みながらクラシックの世界に誘われていった。






以前にも記したことがあるけれど、


振れ幅の激しい作家さん。



目を覆いたくなるほどの残虐非道な作品を描くかと思えば、


純粋無垢な純愛小説まで描く...



そのどちらにも共通して言えるのは、


その圧倒的な表現力は唯一無二ではないだろうか。



ベタベタの純愛物は敬遠しがちな私だけれど、振り切った新堂作品は、


単なる恋愛物とは異なる、ウィットを利かせたプロットが琴線に触れるから、



また手にしたくなる。



本作は、


もちろん残虐物ではない。